マリア・ライムンダ・リベイロ・デ・アルメイダ氏は1カ月ほど前から、毎週月曜日の朝、自宅があるサンパウロ市内のファベーラ(スラム街)、パライゾポリス近くのマクドナルドの前で、迎えの車を待つようになった。
外出禁止令が出される3月24日以前は、家政婦として働いている高級マンションまで毎日バスで通っていた。しかし今では、彼女が新型コロナウイルスに接触する機会を減らしたいと雇い主がウーバータクシーを手配しているため、それを使っている。ブラジル全土で確認されている新型コロナウイルスの感染者は約6万6000人、死者は4500人を超えている。仕事場に着くと、アルメイダ氏は自分の服をすべて着替える。ウイルスが付着している可能性があるためだ。
アルメイダ氏が次にパライゾポリスの自宅に戻れるのは金曜日になる。仕事を続けたいなら平日の間はずっとマンションにいるようにと、雇い主に言われているからだ。自分が稼ぐ2000レアル(約4万1500円)が家族の唯一の収入であるアルメイダ氏にとって、選択肢はないに等しかった。
「わたしの給料があるので、今は大丈夫です」と、43歳のアルメイダさんは言う。「でもこれがなくなったら、どうやって生きていけばいいのかわかりません」
ラテンアメリカの国々では、今回のパンデミックにより、大勢の家事労働者たちの生活が根底から覆された。そもそも彼女らは、世界でもとりわけ不平等な社会でギリギリの暮らしをしている。国際労働機関によると、2016年のラテンアメリカおよびカリブ海地域では、1800万人が家事労働者として働いていた。そのうちの93パーセントは女性であり、また80パーセント近くが、政府の規制や保護のおよばない非公式な条件で就労していた。
外出禁止令が出されたことで、以前から不安定な立場にあった家事労働者たちは、さらに危険な状況に追いやられている。多くの人たちが感染リスクを押して働き続けることを強要され、一方では給与の支払いもないまま解雇された者たちもいる。
生き残るため働く
外出禁止令が出される前、アルメイダ氏は、高級住宅街のマンションにあるベッドルーム3室、バスルーム4つからなる雇い主の家を、1日に9時間かけて清掃していた。マンションに住み込むようになった今では、1日の仕事は際限なく増えている。家族全員がいる部屋で、アルメイダ氏はゴミを片付け、日に何度も食事を作り、ベビーシッターに手を貸して子供の世話をし、ほかにもありとあらゆる雑用を時間に関係なくこなしている。
家政婦、料理人、ベビーシッターたちは、ブラジル各地の家庭で働き続けている。ブラジルは現在、新型コロナウイルスによる死者数がラテンアメリカで最も多い。家庭の安全を守るために、サンパウロ州の家事労働者雇用主組合はウェブサイト上で6つの推奨事項を公開している。例えば、家事労働者が家に到着したら服を着替えさせる、家事労働者に感染の兆候が見られた場合には帰宅させるなどだ。しかし、家事労働者が自宅に留まることを勧める文章はどこにもない。
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