苦戦するマラリアワクチン、根絶への道のり遠く

ケニア、マラウイ、ガーナで接種開始も効果は限定的、さらなる対策を

2020.05.02
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年、ケニア、マラウイ、ガーナで、2歳未満の子どもたちを対象に、世界で初めてマラリアワクチンの大規模無料接種が始まった。(PHOTOGRAPH BY LENA MUCHA)
[画像のクリックで拡大表示]

 2019年、アフリカのケニア、マラウイ、ガーナで、幼い子どもたちを対象に、世界初のマラリアワクチン「RTS,S」の接種が始まった。35年の歳月と巨額の資金を費やして開発されたワクチンに、欧米の専門家たちは熱い期待を寄せるが、それほどのコストに見合う価値があるのかを疑問視するアフリカの専門家もいる。

 世界では毎年2億2800万人がマラリアに感染し、43万人が命を落としている。そのほとんどがアフリカ大陸に集中し、多くは子どもたちだ。

 病原体の寄生虫であるマラリア原虫は、ハマダラカ(Anopheles属)という蚊のメスによって媒介される。マラリアに感染すると、熱、倦怠感、悪寒などの症状が表れ、成人であっても、何週間も寝たきりになる。子どもは長期間学校へ通えなくなり、高額の医療費は家計を圧迫する。(参考記事:「世界で大流行 マラリアの脅威」

 バイオレット・ワチヤさん(24歳)も、子どもの頃にマラリアに感染した。ワチヤさんはケニア西部の農村に生まれ、家族はサトウキビを栽培し、家畜を育てていた。12歳で重度のマラリアにかかって入院し、学校を退学しなければならなくなった。倦怠感や関節の痛みに襲われ、しばらくすると目がほとんど見えなくなった。家族は飼っていた8頭のウシのうち4頭と、ヤギを数頭売って、3万4000ケニアシリング(約3万4000円)の入院費を工面した。

 ワチヤさんは、自分の息子には同じ目に遭ってほしくないと話す。そのために、生後10カ月のプリンス・ジャクソン君を連れて、2回目のマラリアワクチンを打つために病院を訪れた(子どもは、マラリアワクチンを4回に分けて接種する。1回目は生後6カ月、最後のワクチンは2歳で接種)。「これで、息子がマラリアにかかっても、それほどひどくはならないでしょう」と、バイオレットさんは言う。

 だが、ワクチンの効果を疑問視する声もある。臨床試験では、ワクチン接種によってマラリアの発症率が39%減少し、重症患者も29%減少した一方で、他のほとんどの病気の場合、ワクチンの有効率は85~95%と高い。RTS,Sは4回の摂取が必要だが、1回でも逃すと効果が薄れる。病院から遠くに住む家庭の多くは、4回の摂取に通うことも難しい。

次ページ:蚊帳のない病院のベッドで感染

ここから先は「ナショナル ジオグラフィック日本版サイト」の
会員の方(登録は無料のみ、ご利用いただけます。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

ビジュアル パンデミック・マップ

伝染病の起源・拡大・根絶の歴史

ささいなきっかけで、ある日、爆発的に広がる。伝染病はどのように世界に広がり、いかに人類を蹂躙したのか。地図と図版とともにやさしく解き明かす。

定価:本体2,600円+税

  • このエントリーをはてなブックマークに追加