2018年、パリ一番のバゲットを決めるコンテストでグランプリに輝いたマフムード・ムセディ氏。バゲットはフランスの象徴で、とても神聖なため、国の法律に成文化され、厳格に保護、規制されている。(PHOTOGRAPH BY DMITRY KOSTYUKOV, THE NEW YORK TIMES/REDUX)
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 今からおよそ1万4400年前、現在の中東ヨルダンで、パン種の入っていない円形のパンが焼かれた。2018年にこの地域で、古代の炉から黒焦げのパンが発見されたのだ。

 それまで、パンを食べる習慣は約1万年前に始まったと考えられていた。ところがこの発見は、狩猟採集民が定住し、農耕を開始するはるか以前からパンがつくられていたことを示唆している。つまり、パンが私たちの生活にどれほど長く根付いていたかについて、定説が覆されたということだ。

 今やパンは、私たちの食卓にも心の中にも、不動の地位を築いている。米国南部のコーンブレッドからアジアのロティまで、世界のパンを紹介しよう。

世界に出たアジアのロティ

 ロティ(別名チャパティ、プルカ、マーニ)は、見た目はいたってシンプル。パン種を使わない平らな円形のパンで、何であれ一緒に食べるものの皿やスプーンの役割を兼ねる。しかしその歴史は、初期の農耕から奴隷貿易、強制労働といった複雑な物語を伝える。

 ロティは何世紀も前からインドやパキスタンで食べられているが、約500年前、ヨーロッパ人が入植して以降、コミュニティとともに南アジアの故郷から外へ出た。現在、スリランカやタイ、マレーシア、インドネシアで定番となっており、南アフリカやカリブ海諸国でも、南アジア系の人々の重要な食材となっている。

具入りのロティをつくる女性。インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州カルソッグ近郊のカラサン・ナーセリー・ファームで撮影。(PHOTOGRAPH BY PORAS CHAUDHARY, THE NEW YORK TIMES/REDUX)
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サルデーニャ島の二度焼きパン

 約3000年前、地中海に浮かぶサルデーニャ島の羊飼いたちは、食事の時間になると「パーネ・カラザウ」が山積みになった丘を目指した。このパンは、その薄さからカルタ・ダ・ムジカ(楽譜)とも呼ばれ、最長1年保存できる。パーネ・カラザウは現在もイタリア、サルデーニャ島の定番で、最近、島に点在する巨石の住居からこのパンの痕跡が発見された。

 つくり方を説明しよう。まず、デュラム小麦の生地を紙のように薄い円形に伸ばし、薪オーブンで焼く。風船のように膨らんだら、柔らかいうちに上下2枚に分け、それぞれを平らに伸ばす。再びオーブンで焼き、パリパリに仕上げる。

パーネ・カラザウはイタリアのサルデーニャ島で広く食べられている極薄パンだ。(PHOTOGRAPH BY FRANCES COMOU FOTOGRAFO, GETTY IMAGES)
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平和を取り戻すレバノンのパン

 マヌーシュはザアタルというミックススパイスが塗られた平らなパンで、朝の定番として首都ベイルートの至るところで売られている。しかし感動を求めるのであれば、「スーク・エル・タイーブ」を訪ねてみるといい。長年の紛争を経て民族、宗教の境界が鮮明になったコミュニティーをまとめるため、カマル・ムザワク氏が2004年に立ち上げたファーマーズマーケットだ。

 女性たちが地元の農産物を販売し、収入を得られるようにすることも目的としている。スローガンは「戦争はいらない、食べ物をつくろう」。マヌーシュの正しいつくり方など、食の伝統を守るための取り組みも行っている。

米国南部のコーンブレッド

 20世紀初頭、米国南部に機械製粉がもたらされるまで、コーンブレッドに小麦粉や砂糖を使う人はいなかった。石臼や水車でひいたコーンミールは風味と食感が豊かで、卵、バター、バターミルク、場合によってはふくらし粉を加えるだけで十分だった。

 しかし、新しい鋼鉄の製粉機でひいたコーンミールはきめが細かく、ローラーの熱によって風味も奪われ、砕けやすい淡泊なコーンブレッドに仕上がった。その結果、生地をまとめるために小麦粉が、味付けのために砂糖が加えられるようになった。

大量のコーンブレッドを用意するパン職人。米国ノースカロライナ州エイデンのスカイライト・インBBQで撮影。(PHOTOGRAPH BY PETER FRANK EDWARDS, REDUX)
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