米国人の多くが、2020年になって初めて「ウェットマーケット(生鮮市場)」という言葉を聞いたにちがいない。ウェットマーケットは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)をきっかけに、一躍注目されることになった。これは中国、武漢のウェットマーケットである「武漢華南海鮮卸売市場」がCOVID-19の発生源と考えられているためだ。 (参考記事:「新型コロナウイルス 関連記事まとめ【随時更新】」)
ウェットマーケットは、世界各国で見られるファーマーズマーケット(農産物直売所)とよく似ており、通常、新鮮な海産物、食肉、果物、野菜が集まって売られている。ニワトリ、魚、カニやエビなどが生きたまま売られたり、食べやすいように処理して販売されたりしている。中国では、ウェットマーケットは日常生活に不可欠な存在なのだ。
多くはないが、野生動物とその肉を扱うウェットマーケットもある。武漢の華南海鮮卸売市場には、野生動物の売り場があり、ヘビ、ビーバー、ヤマアラシ、ワニの子供などの生体と肉が販売されていた。
ところで、こうしたアジアの生鮮市場が「ウェット」マーケットと呼ばれるのは、なぜだろうか? 一説では、水槽で飛び跳ねる魚、食肉を冷たく保つための氷、解体された動物の血液や内臓など、液体をイメージして付けられた呼び名だという。また、乾物のように日持ちする商品ではなく、湿った腐りやすい商品を扱っているからという説もある。
ワイルドライフマーケット(野生生物市場)の違いは?
英国ロンドンのNPO、環境調査エージェンシーに所属する中国の専門家アーロン・ホワイト氏によれば、ほとんどのウェットマーケットは生きた野生動物は扱っていないという。また同氏は、「ウェットマーケット」と「ワイルドライフマーケット」がしばしば混同されると話す。
ワイルドライフマーケットは、食肉あるいはペット用の野生動物に特化した市場で、こちらも世界中で見られる。市場そのものは合法だが、取引が禁止されている種を販売していることもある。中国にどれくらいワイルドライフマーケットが存在するかは不明だ。また、ホワイト氏によれば、現在、野生動物の多くがオンラインで取引されているため、違法な取引の追跡が一層困難になっているという。
世界自然保護基金(WWF)が2020年4月7日に結果を公表した2020年3月の調査によれば、アジアでは、未規制のワイルドライフマーケットを閉鎖すべきだと考える人が増えているようだ。香港、日本、ミャンマー、タイ、ベトナムの約5000人を対象にした調査でも、違法な市場、未規制の市場の排除に動く政府を支持するという回答が93%を占めていた。
野生動物の肉、いわゆる「ブッシュミート」はインド、中南米、アフリカなどの市場で広く販売されている。厳密に言うと、ブッシュミートは元々アフリカの森林やサバンナで狩猟された動物の死体を指す言葉だったが、現在は野生動物の肉を表す言葉として使われるようになった。
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