日本人とニホンザル

日本の「猿まわし文化」は外国人ジャーナリストにどう映ったか

2020.05.03
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川崎市を拠点とする「戦豆の猿まわし」のサルたちが日課の散歩に出た。猿まわしで赤ちゃんザルたちが最初に教えられるのは小さな椅子に座ること。それができるようになると、二足歩行や竹馬、ハードルを跳び越えることを身につけていく。(PHOTOGRAPHS BY JASPER DOEST)
この記事は、雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版 2020年5月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

日本では昔から、サルは神と人間を橋渡しする神聖な存在であり、同時に芸達者なエンターテイナーだった。しかし今もそれは変わっていない?

 サルたちはサッカーのユニホームを着ていた。

 ひもでつながれた6匹のニホンザルが日本とブラジルの2チームに分かれて、人工芝のピッチでボールを蹴り合う。そして、調教師と観客たちが声援を送る。日本チームのサルたちはがっちりとした体格をしていて、ブラジルチームは身のこなしが速い。ブラジルの背番号「10」を付けたサルがボールを奪い、ゴールにシュートを蹴り込んだ。ブラジルの勝利! 日本チームのサルたちが参りましたとばかりに頭を下げると、観客からどっと笑いが起きた。

 これは、栃木県日光市にある観光施設「日光さる軍団劇場」で上演されている「おさるサッカーガチバトル」だ。ここではサルのさまざまなショーが披露されるほか、サルと遊ぶこともできる。エアホッケーのアトラクションでは、オレンジ色のジャージに身を包み、おむつを付けたサルが5歳の入園者と対戦していた。サルは次々とゴールを決め、挑戦者をこてんぱんに打ち負かした。ほかにも、おみくじを引いてくれるサルや着物姿でハードルを跳び越えるサルもいる。

 屋内劇場で、調教師の鈴木由梨亜とニホンザルの「りく」のコンビのパフォーマンスが始まった。コントで観客を笑わせた後、水玉柄のパンツにサテンのベストを着たりくが芸を披露する。離れて置かれた階段の間を跳び移ったり、高いポールの上で片手立ちしたりした。

 日光さる軍団で披露されている芸は、日本の伝統文化「猿まわし」に根ざしたもので、サルは馬の守り神であり、神々と人間を橋渡ししてくれるという信仰に基づいている。日本では古来、サルは邪気を払い、幸運をもたらすと信じられ、猿まわしも長い伝統がある。

宇都宮市にある居酒屋かやぶきでは、客たちの食事が終わると、ペットとして飼われているサルたちがステージに上がって、お面をかぶって、客を楽しませる。(PHOTOGRAPHS BY JASPER DOEST)

 一般社団法人アニマル・リテラシー総研の代表理事を務める山崎恵子によれば、多くのサルが褒めることで良い行動を引き出す「陽性強化」と愛情をもって訓練されているものの、なかには、調教師から厳しい罰や虐待を受けているケースもあるという。人間が飼育するサルに関しては、「動物の愛護及び管理に関する法律」によって守られているが、この法律で重点が置かれているのは、犬や猫といった一般的な愛玩動物だ。

「子猫や子犬のために活動する動物愛護グループはたくさんあります。殺処分の禁止などを訴えているのです」と山崎は言う。「私たちが目指しているのは、家畜や動物園の動物、実験動物も含め、あらゆる動物を対象とした動物福祉に関する法律を日本につくることです」

 日本には動物たちに芸をさせてきた長い歴史があるが、伝統文化だからといって、芸をするサルを虐待から守れないはずもないと山崎は言う。「サーカスのようなものです。歴史を振り返ってみれば、極めて虐待的な方法で動物たちが芸を仕込まれてきた時代もあるのです。猿まわしも例外ではありません。しかし文化は進化します。不変のものではありません」

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