自閉症を抱えて大人になる

米国の調査では8歳児の59人に1人が自閉症と診断

2020.04.30
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米国フロリダ州の洗車サービス店「ライジング・タイド・カーウォッシュ」で働く19歳のルーク・ゼンダ。掃除機のノズルで頰をなでる。経営者のトム・デリは弟が自閉症で、彼らが働ける場として、父親とこの事業を始めた。(PHOTOGRAPHS BY LYNN JOHNSON)
この記事は、雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版 2020年5月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

自閉症の人が仕事やパートナーを見つけ、自立するのにはかなりの困難が伴う。そんな状況を少しでも変えようと、支援の手を差し伸べる人たちがいる。

「みんな、 忘れないで、 首から上だよ!」

 ここは、特別な支援が必要な成人男女がパートナーとの関係づくりを学ぶ「ピアーズ・デート講座」の教室。参加者の多くは自閉症で、大半が20代後半だが、実際の年齢よりもかなり若く見える。ほぼ全員が親元で暮らしていて、家族や介護者が付き添っている人もいた。無精ひげを生やしている人もいれば、聞いたこともないロックバンドのTシャツを着ている人、聴覚過敏用のノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンを装着している人も多い。そんな参加者たちが、相手を褒める練習をする。

 自閉症の人は相手の気持ちを察するのが苦手で、参加者は対人関係のルールを知りたがっている。デートともなると、ルールも盛りだくさんだ。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の博士課程の学生がコーチを務めている。

 チェックのシャツにカーキのパンツ姿の若者が、何か褒めなければと、女性コーチを上から下までじろじろ見た。その視線がタトゥーを入れた足首に留まる。「それ、ラムダ(素粒子の一種)だね。生物物理学が好きなの? 僕もだよ!」

「首から上、と言ったはずだよ」。横で指導に当たる男性コーチが口を挟んだ。「でも、いいだろう。上出来だ。とてもいいきっかけになる。相手との共通点を見つけたんだからね」

 若者はにっこりした。

 男性コーチは小ぎれいなボタンダウンのシャツを着た若者の方を向いて、女性コーチを褒めるよう促した。女性コーチは笑顔を見せたが、若者は緊張のあまり汗をかいている。「ぼ、あの、僕は……あなたの白い肌にイヤリングがキラッと光るのが好きです」

「詩的な表現だね!」と男性コーチ。「ただ、初対面のときは、肌の色や民族とか宗教の話は避けた方がいいよ」。浅黒い肌をしたその若者はうなずいてメモをとったが、それでも言い訳しようとした。「でも、色がとても白いのは野良仕事をしていない証拠で、高貴な感じがするという意味なんです」

 その言い訳はいただけないと、私は内心苦笑したが、彼の真剣さには心打たれた。

フロリダ州の自宅で、音楽に合わせて踊るマディ・ヘイリー。この日は友達3人と妹が、11歳の誕生日を祝ってくれた。友達の関心事は年齢につれて変化しているが、マディは子どもっぽいままだ。それでも彼女たちはとても仲良しで、お互いを大切にしている。 (PHOTOGRAPHS BY LYNN JOHNSON)

増える自閉症の成人

 大人になるのは、ただでさえ難しい。彼らのような若者なら、なおさらだ。

 自閉症は、対人関係や言語、コミュニケーションの障害に加えて、同じ行動の繰り返しが見られる複雑な神経疾患だ。障害の程度だけでなく能力にも大きな個人差があるため、「はっきりした境界がなく連続した範囲」を意味するスペクトラムという言葉を付けて、自閉症スペクトラムと呼ばれている。

自閉症に特有の「自己刺激行動」と呼ばれる反復動作をする12歳のカルビン・クラーク(右)。友達のベネット・ソロモンドがそれを見て踊りだす。二人はペンシルベニア州で開催された療育キャンプに参加している。いじめに苦しんできたカルビンは、発作的に怒りを爆発させることがある。(PHOTOGRAPHS BY LYNN JOHNSON)

次ページ:8歳児の59人に1人が自閉症

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