アマゾン孤立部族に新型コロナの死者、その危険性

病原体にきわめて弱い集団への感染、大量死引き起こす可能性も

2020.04.15
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ブラジルのアマゾン西部奥深くを蛇行して流れるイタクアイ川。この先には世界で最も外界から隔絶された先住民の居住地が広がる。彼らが新型コロナウイルスにさらされれば、集落が全滅するかもしれないと健康保健の専門家や人権運動家らは懸念する。(Photograph by Nicolas Reynard, Nat Geo Image Collection)
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 アマゾン川流域に孤立して暮らす先住民に、新型コロナウイルスによる死者が確認された。彼らは感染症への抵抗力がきわめて弱い。ブラジルの政府高官や人権擁護活動家は、惨事が間近に迫っていると警告する。

 ブラジル北部ロライマ州の医療従事者は、4月9日、先住民ヤノマミの少年が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により死亡したと発表した。少年は最初に症状が現れてから3週間の間に、友だちや近くに住む数十人に病気を拡散させた可能性があるという。少年の行動範囲には、外部の金鉱労働者が数多く違法に立ち入っており、どこで誰から感染したかは特定できていない。

 ブラジルでの先住民の死亡はこれで2人目。同国の先住民ではこれまで7人の感染者が確認されており、その居住地はアマゾン川流域の3つの州に散らばっている。うち4人はブラジル西部アマゾナス州で暮らすコカマ族の親族で、現地で医療活動にあたる医師から感染した。この医師はブラジル南部で開催された会議から最近戻ったばかりで、自主隔離規則を守っていなかった。

ロライマ州のヤノマミ先住民居住区の中心にあるモキシハテテマ村の住民は、ヤノマミの別の集落を含む外部との接触を根気強く避けているが、村から徒歩で2日の距離で違法な金鉱採掘が行われていることが発覚した。先住民の部族長らはヤノマミの最初のCOVID-19による犠牲者は、違法な鉱山労働者から感染したと非難し、探鉱者を追い出さなければモキシハテテマ村のような村は全滅すると心配する。(Photograph by Guilherme Gnipper Trevisan/Hutukara)
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 北部のパラ州では、87歳のボラリ族の女性がCOVID-19によって死亡していたことが死後検査で確認された。3月下旬に行われた葬儀には、女性が恐ろしいウイルスに感染していて病気がうつるとは知らない大勢の人が集まった。この数百名の参列者から今後多くの発症者が出れば、すでに危機的状況にある同地域の医療体制が崩壊するのではないかと案じられている。

「ジェノサイド(集団殺害)の危険性」

「アマゾン川流域では、もともと州をまたいだ人の移動が多いうえに公共政策も欠如するなど、COVID-19が急速に広まる条件が揃っています。短中期的に大きな災難が生じるおそれがあります」とロンドニア州ポルトヴェリョの大司教であるホキ・パロスキ氏は言う。

 ブラジルの検察に当たる連邦公共省は4月8日、先住民を新型コロナから守る対策を怠ったとして、国立先住民保護財団「FUNAI」に対し「ジェノサイド(集団殺害)の危険性」があると警告した。そしてFUNAIで孤立部族を管轄するリカルド・ロペス・ディアス氏を直ちに解任するよう再度要求した。

 FUNAIは数十年にわたる懸命の努力によって、アマゾンに暮らす孤立部族が28あることを確認しており、ほかにも80ほどあるのではないかと推測している。1987年以降、孤立部族が暮らす地域に外部の人間が入ることは連邦政策により禁止されている。これは主として、外界との接触がなかったため免疫がほとんどない、あるいはまったくない人びとを感染症から守るためである。

 しかし批評家らは、宣教師や営利組織がこうした部族の保護区に侵入することをディアス氏が黙認するのではないかと考えている。一方のディアス氏は、この主張を否定し、彼の部署は、孤立部族が暮らす土地との接触を管理する21の出先機関を維持すると言う。

「このような人びとを保護するというFUNAIの責任に変わりはありません」と、ディアス氏はナショナル ジオグラフィックに対するメールで述べている。「保健当局のガイドラインに従って、この世界的な健康危機に可能な限り最善の方法で対処するための措置を講じています」

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