海底下に「腸内並み」の微生物群集、火星にいる可能性も

岩石の亀裂を埋める粘土に生息、豊富な有機物も、東大ほか

2020.04.07
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ベルトコンベアの中の生命

 海洋地殻は、火山活動が盛んな海底山脈の中央海嶺(世界中の総延長は6万4000キロにも及ぶ)で、38億年にわたり絶え間なく作られてきた。

 海洋地殻は主に玄武岩からなる。固まったばかりの溶岩は熱く、堆積物も少ないため、冷たい海水が岩石の中を循環する。そして、出来たての熱い岩石には、鉄をはじめ、海水中の酸素と反応しやすい状態の様々な金属が豊富に含まれている。この化学反応を利用して、微生物は自らのエネルギーを作り出せる。

 対して、岩石が冷えると海水の循環が弱まり、海水中の酸素はすっかり消費されてしまう。その代わりに、水と玄武岩が反応して水素が発生する。冒頭で紹介した、2013年にデンマーク、オーフス大学の生態学者マーク・リーバー氏らにより報告された350万年前の微生物は、こうした水素を利用してエネルギーを得ていた。

 今回の微生物群集は、さらに古い玄武岩で見つかった。

 中央海嶺では、若い火山岩ができるにしたがって、古いものが押し出される。いわば地殻のベルトコンベアだ。したがって、中央海嶺から離れるほど、岩石は古く冷たい。そこでは、鍵となる成分が不足しているため、微生物が存在する見込みは低いとされてきた。だが、それは研究を止める理由にはならなかった。

 2010年10月、南太平洋に浮かぶクック諸島から西に640キロほど離れたあたりで、調査船が水深5800メートル地点で海洋地殻の掘削調査を行った。

 掘削した海域は栄養が極めて乏しく、「海の中にはほとんど生命が存在しません」とリーバー氏は話す。「地球で最も生命の乏しい海域」の1つだ。なお、同氏は今回の研究には関わっていない。

 複数の場所の海底下100メートル以上から、地殻コア(柱状の試料)が採取された。地殻ができた年代は、1350万年前から1億400万年前におよんだ。その後10年間、鈴木氏らの研究チームは労を惜しまず採取した岩石を調べ、すべてのサンプルの微細な亀裂に(鉄を豊富に含む粘土が詰まっていた)、生命が存在していたことをついに明らかにした。

岩石サンプル中の蛍光顕微鏡画像。緑色が微生物細胞、オレンジ色が粘土鉱物、黄色は粘土鉱物と微生物細胞が混在している部分。(IMAGE BY YOHEY SUZUKI, UNIVERSITY OF TOKYO)
岩石サンプル中の蛍光顕微鏡画像。緑色が微生物細胞、オレンジ色が粘土鉱物、黄色は粘土鉱物と微生物細胞が混在している部分。(IMAGE BY YOHEY SUZUKI, UNIVERSITY OF TOKYO)
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亀裂の粘土は「魔法の素材」

 コアを調べる際に、微生物を含む海水でサンプルを絶対に汚染しないよう、岩石を割る前に外側を入念に殺菌した。内部から見つかった生命体は、正真正銘の地殻の住民だと考えられると、ソルサノ氏は言う。

 580気圧相当の高圧下で、栄養が乏しく、生命の空白地帯だと考えられてきたこうした岩石に、微生物が広範囲にわたり極めて高密度で生息しているという事実は、微生物の適応力の高さを示している。

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