地名の付いた料理は、本当にそこの名物なのか?

これだけある 世界の「名前だけ」ご当地料理

2020.08.15
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 チキン・キエフはウクライナ発祥ではなかったものの、19世紀後半にはロシア帝国の貴族が好んで雇っていたフランス人シェフたちによって、ロシア人の食卓に登場し始めたようだ。おそらく当初は主に豚のひき肉を使用していたと思われるが、子牛のひき肉や鶏ひき肉を使うこともあったようだ。

 この鶏肉のレシピが20世紀初め、ロシアの観光客向けホテルチェーンで人気となった。1960年代には名前も「チキン・キエフ」と西洋化され、薄く伸ばした鶏胸肉を使うようになった。そして、お洒落な英国風、米国風ディナーパーティーの主役を務めるようになった。

 一方、キエフでは1970年代まで、シェフたちがこの料理に注目することはなかった。しかし、旅行者がレストランでリクエストするようになり、その期待に応えるため、キエフは「チキン・キエフ」を受け入れた。

 現在のキエフでは、アメリカンドッグのように手に持って食べられるチキン・キエフや、フォアグラとカリフラワーのムースでドレスアップしたチキン・キエフなどを味わうことができる。今では街を象徴する料理となり、2018年には街の中心部にほぼ原寸大のブロンズ彫刻まで現れた。そしてそのすぐそばには「チキン・キエフ」という名のレストランがある。

創作料理にも「イメージ膨らむ」地名

 露骨なマーケティング戦略によって誕生した料理名もある。その一つが「クラブ・ラングーン」だ。ワンタンにカニやクリームチーズ、少量のトウガラシを詰めて油で揚げた料理で、前菜として人気が高い。

 ラングーンは、ミャンマー最大の都市ヤンゴンの旧称。だがこの街に、クラブ・ラングーンに使うクリームチーズを扱う店はほとんどない。それどころかこの料理は、20世紀半ばに米国カリフォルニア州でレストランを営むビクター・J・バージェロン氏が生み出したものだ。

 バージェロン氏のレストラン、トレーダービックスでは南太平洋の装飾を取り入れ、アジアやポリネシアのさまざまな料理を本来とは違うかたちでメニューに加えた。クラブ・ラングーンをはじめ多くの料理で、バージェロン氏は単純に遠く離れた土地の名前を使用している。少しトロピカルなアイスクリームサンデーの名前である「スクワブ・キャセイ」や、「タヒチアン・フランベ」はその好例だ。「料理名に土地の名前を付ければ、すぐにその料理のイメージを連想できるでしょう?」

ミャンマー、ヤンゴンの中心部で輝くスレー・パゴダ。(PHOTOGRAPH BY MARIO WEIGT, ANZENBERGER/REDUX)
ミャンマー、ヤンゴンの中心部で輝くスレー・パゴダ。(PHOTOGRAPH BY MARIO WEIGT, ANZENBERGER/REDUX)
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 1950年代に初めて提供されたクラブ・ラングーンは今も、米国アトランタからアラブ首長国連邦(UAE)に至る17支店で最も人気が高い前菜の一つだ。トレーダービックスの広報担当者で、創業者の孫にあたるイブ・バージェロン氏は「異国情緒のある食材とヨーロッパの料理法を組み合わせた多国籍料理です」と話す。

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