ナショジオ本部の地下に写真の迷宮、時空を超えた旅へ

世界90カ国を訪れた旅行ライターが、ナショジオの写真資料室を旅した

2020.03.11
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ナショナル ジオグラフィックのコレクションには数百万点の資料が保管されている。左から、雑誌「Traveler」の創刊号、探検家J・マイケル・フェイが「アフリカ徒歩横断」プロジェクトで使用した黄色い現地調査日誌、アポロ11号とともに月へ行ったナショナル ジオグラフィック協会の旗、ハイラム・ビンガムのマチュピチュ発掘を撮影した1915年の写真アルバム。(Photograph by Rebecca Hale)
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 旅行ライター兼編集者として、私はこれまで90以上の国と5つの大陸を訪れ、集めた話を世界中で発表してきた。しかし、今回の依頼はそんな動きを止めるものだった。米国ワシントンD.C.のナショナル ジオグラフィック本部の地下にある、窓のない写真資料室で1週間過ごすように言われたのだ。

 私には不慣れな仕事だ。引き受けるべきか1日悩んだ結果、好奇心が勝った。未知の荒野を探検するようなものだ。アーカイブの大陸「アーキビア遠征」と名づけた。

 アーキビアの謎を解く鍵のひとつになったのが、ビル・ボナー氏を知ったことだ。氏は2016年に引退するまで、約34年間も写真コレクションを管理していた。「古いものでは1870年代からの50万点近い白黒写真、約1万2000点のイラスト、手書きで彩色された白黒写真、世界最大級のオートクローム(初期のカラー写真)コレクションなどがあります。これほど大量で広範囲にわたる記録は、世界でもそうありません」と言う。

 ボナー氏に、資料室の意義について聞く。「私は旅行家ではありませんが、写真を通じて世界中を見てきました。多くの人にも会いました。ある意味、時間旅行もしました。そのことで悲しくなることもありました。そこへ行ってみたいと思うのです。『そこ』というのは、多くの場合、場所よりもその時間のことです。写真に写った、まさにその瞬間です。でもその瞬間は過ぎ去っています。この資料室は、私にとっては聖なる地です」

1909年4月6日、探検家ロバート・ピアリと乗組員が北極点(と彼らが主張する場所)に旗を立てた。ピアリは日誌に書いている。「とうとう北極点だ! 300年来の競争の的、私の23年間の夢と悲願が、ついに私のものになった」(Photograph by Robert E. Peary)
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月とオーロラの光で撮影された写真。カナダ、エルズミア島のシェリダン岬の海氷に閉じ込められたピアリの船、ルーズベルト号。(Photograph by Robert E. Peary)
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 ボナー氏と話してすぐに、私はその聖なる地に足を踏み入れた。資料の管理人が蛍光灯で照らされた地下室に迎え入れてくれる。約10メートル四方の部屋いっぱいに設置された高さ約4メートルの移動棚に、ホルダーと箱がぎっしりと詰め込まれている。管理人は白い綿の手袋を私に手渡して言う。「どちらへ行かれますか?」

歴史を手にする

 旅の最初は、ナショナル ジオグラフィックが支援したロバート・ピアリの1909年北極遠征にしよう。管理人が渡してくれたのは、高校生の時に使ったような三穴バインダーに慎重にとじられた白黒のスナップ写真だ。しかしこの写真といったら! 氷山に取り囲まれた船。モコモコの毛皮つき防寒具を着た乗組員たち。

 この写真は科学的記録であり、歴史的記録である。彼らは前人未踏の地に踏み入っているのだ。白い手袋をした手で写真を慎重に持つと身震いがした。私は今、歴史を手にしている。

1921年にフランク・ハーレーが撮影した、パプアニューギニアのジャングルの間を流れるオピ川。(Photograph by Capt. Frank Hurley, National Geographic)
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 1921年にフランク・ハーレーが撮影したパプアニューギニアの写真からも、同じ感覚が湧いてくる。写真の中の川が、手袋をした手の中を流れていくようだ。先住民たちが列を作って撮影者を村に迎え入れている(写真の説明には驚くことが書かれている。「2列に並んだ食人族が狭い歓迎のアーチを作ってくれ、私たちはその下をくぐった」)。

 精巧な彫刻が施された盾と幾層にも重ねられた頭蓋骨。歯と細長い貝殻でできた飾りを下唇につけた戦士。見事な羽飾りを被った女性は、幅広い板状の首飾りや20センチもある鼻ピアスを身につけている。

 今とはだいぶ違うセンスだったことはさておき、私はこの写真を子どもの頃に見たことを思い出す。両親の地下室にきちんと積まれていた黄色い縁取りの雑誌をのぞき見ていたときだ。アーキビアは、黄色い縁取りの雑誌が積まれた世界中の地下室の象徴のような気がしてくる。私は目の前の写真を見ながら、ボナー氏の言葉を思い出す。完璧なコレクションではないが、生きた画像だ。世界を作るモザイクのかけらが集められ、保管されている。

参考ギャラリー:古代インカ都市マチュピチュ 写真9点(画像クリックでギャラリーへ)
1911年に探検家のハイラム・ビンガムによって発見された古代インカ帝国の遺跡マチュピチュには、毎年、大勢の観光客が訪れる。 (PHOTOGRAPH BY DIANE COOK AND LEN JENSHEL, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

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