およそ7万4000年前、現在のインドネシア、スマトラ島の超巨大火山(スーパーボルケーノ)が大噴火を起こした。トバ噴火と呼ばれるこの出来事は、過去200万年で最大規模の火山噴火だった。数千キロ先まで火山灰を振りまき、幅100キロにおよぶ噴火口を出現させた。以来、噴火口は湖となっている。
この超巨大噴火が、世界的な寒冷化を引き起こしたとする説がある(トバ・カタストロフ理論)。火山灰やすすが空を覆い、南アジアでは長期にわたって森林が失われたというのだ。ただ、これが事実だとしても、インド中央部の人類は激しい環境変化の中を生き延びたとする研究成果が発表された。
インド、マディヤ・プラデシュ州にあるダバの発掘現場では、8万~6万5000年前の堆積物の層から、太古の石器が見つかる。2月25日付けで英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された論文によると、噴火の前後で同じタイプの石器が使われ続けた。したがって、1つの継続した集団がトバ噴火の影響下でも生き残ったというのが著者らの主張だ。
環境を激変させたとする説
トバ・カタストロフ理論は、「トバの超巨大噴火によって『火山の冬』が訪れ、氷河時代へ向かい、生態系は激変し、大気と景観に甚大な影響を与えたというものです」と、ドイツ、マックス・プランク人類史科学研究所の人類学者、マイケル・ペトラグリア氏は説明する。だがペトラグリア氏の研究グループは、ダバの発掘地で、景観を一変させるほどの大きな打撃があったという証拠にまだ出合っていない。
「環境の変化がなかったというわけではありません。しかし、発掘からわかる影響は、想像されてきたよりもかなり少なく、ここにいた狩猟採集者たちは、変化に適応できたのでしょう」とペトラグリア氏は語る。
ペトラグリア氏らのチームは、ダバの遺物が、これまでにアフリカ中期旧石器時代(約28万5000年~5万年前)のアフリカやオーストラリア、アラビア半島の遺跡で出土した同様の石器と一致すると考えている。こうした石器技術の共通性から、研究チームは、ホモ・サピエンスが従来の説よりも早くアフリカを出ており、ダバの遺物はそれをさらに強く裏付けるとみている。(参考記事:「インドで剝片石器、アジアの旧石器時代を変える?」)
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