米カリフォルニア州ポイント・レイズ・ステーションに打ち上げられたコククジラ。新たな研究によって、太陽嵐が一時的にクジラの方向感覚を狂わせる可能性があることがわかった。(PHOTOGRAPH BY JUSTIN SULLIVAN, GETTY)
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 コククジラは、北米大陸の西海岸を1万6000キロ以上にわたって南北に移動する。夏にはアリューシャン列島付近まで北上し、冬にはメキシコ湾岸まで南下して出産する。この移動距離は、哺乳類の中で最大級だ。(参考記事:「動物大図鑑 コククジラ」

 このコククジラの長旅を、太陽嵐が一時的に妨害し、クジラが座礁する原因にもなっていることを示す新たな研究が、2月24日付けの学術誌「Current Biology」に発表された。それはつまり、コククジラが地球の磁場を利用して移動している可能性を示している。現時点で言えるのは、コククジラが少なくとも視覚を使っているということだけだ。(参考記事:「太陽嵐の危険度、場所により100倍も差、米国」

 太陽嵐は、太陽から高エネルギー粒子が大量に放出される現象で、これが地球に降り注ぐと人工衛星や電力網などに支障を及ぼす場合がある。ただし、人間を含むほとんどの動物は、太陽嵐によって重大な影響を受けないと考えられている。地球の磁場が楯になってくれるからというのが理由だ。(参考記事:「太陽嵐がもたらした強度「G4」の磁気嵐とは」

 今回発表された論文では、クジラが岸に打ち上げられるいくつかの原因の一つとして、太陽嵐を挙げている。現在、コククジラの座礁は頻発している。おそらく獲物が減ったことによる餓死が原因と考えられているが、座礁数は2019年1月以降で180頭以上となっており、通常の数倍に上っている。(参考記事:「【動画】餓死したクジラ、胃にビニール袋80枚」

参考ギャラリー:太陽嵐の衝撃(写真クリックでギャラリーページへ)
2011年7月21日 米国航空宇宙局(NASA)の太陽観測衛星(SDO)が撮影した太陽の極紫外線画像。色は、異なる光の波長を識別するためにNASAによって付けられている。磁気活動の活発な領域の間に発生するコロナ・ループ(環状のガスの流れ)は明るく輝き、磁場に浮かぶフィラメント(プラズマの塊)は相対的に温度が低く、暗い。 Photograph by NASA Solar Dynamics Observatory (SDO)

 米デューク大学の感覚生態学者ジェシー・グレンジャー氏らは、その原因を突き止めるため、1985年以降に北米西海岸で生きたまま座礁したコククジラの記録を調査した。他の要素を除外するため、病気やけがによる座礁と見られるものは省いた。

 そこからわかったのは、クジラの座礁は、太陽嵐によって高周波ノイズのレベルが高くなった日に多いことだ。通常の日に比べて座礁数が4倍になるという。

コククジラは磁場を感じ取れるのか?

 ほかの動物では、高周波ノイズが広い帯域で発生すると、磁場を読み取る感覚(磁覚という)が一時的に使えなくなる場合があることがわかっている。その一例がヨーロッパコマドリだ。こうした動物は、位置によって地球の磁場が変わるのを感知でき、現在位置や進行方向を判別できるようになっている。(参考記事:「渡り鳥、微弱な電磁波でも方向失う」

 グレンジャー氏は、クジラに起きているのもこれと同じ現象ではないかと考えた。

 今回の論文に関与していない英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのエレン・クームス氏は、次のように述べている。「論文では、コククジラに磁覚があるという決定的な証拠は提示されていません。しかし、混獲や船との衝突、明らかな病気など、クジラが座礁するいくつかの他の原因を除外しているので、磁覚をもつ可能性が高まったことが示されています」(参考記事:「中型クジラ82頭が集団座礁で大量死、米国」

次ページ:太陽嵐で一時的に「失明」状態に

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