南米最南端のホーン岬から800キロあまり南下すると、細長い土地と小さな島々からなる南極半島に行き着く。南極大陸の最北に位置し、ペンギン繁殖地として知られているこの場所が、今、聞き慣れない理由で大きな話題になっている。20℃を超す高温だ。
この熱波は今は回復しつつある。だが南極半島の北端近くと、その付近の島々の気象観測所では、18℃前後、さらには20℃を超える気温を記録。正式に認められれば、南極大陸で観測された気温の最高記録を更新することになる。(参考記事:「2010年代は観測史上最も暑かった、NOAAとNASA発表」)
異常な高温の背景には、さまざまな要因がからむ。だが、このおかしな天気は、長期的な傾向と一致している。通常、南極半島の夏の気温は0℃近くをうろつくか、2~3℃上回るかといったところだが、この数十年で急激な温暖化が起こっており、記録破りの領域に踏み込もうとしている。そして、大気中の炭素濃度が上がり続けているため、新記録が出たとしても、またすぐに更新されるだろう。
「全く驚きではないと思います」と、米ワシントン大学の南極氷河学者、ピーター・ネフ氏は話す。「全体的なトレンドの1つなので、今後は寒い事象よりも高温の事象を多く目にすることになるでしょう」(参考記事:「永久凍土の「急速融解」、温暖化への影響は従来説の倍も、研究」)
弱まった偏西風とフェーン現象
最近の南極の熱波は、元をたどると数百キロ北での現象に行き着く。
2月初めごろ、高気圧の尾根が南米の南端を越えて南下し、一帯は暖かい天候に包まれた。ベルギー、リエージュ大学の極地気候学者、グザビエ・フェットウェイス氏によると、夏に何度か起こる現象だという。ただし通常は、南極半島までその影響は届かない。偏西風が暖かい空気を侵入させないからだ。
しかしこの数カ月、南極振動と呼ばれる現象にともなって南極周辺で偏西風が弱まっている。これが一因となって「例外的に」暖かい空気が南に流れ出したとフェットウェイス氏は言う。
その上、南極半島の北端を取り囲む海水温は、2月の初めにかけて、通常よりも1.5~3℃近く高かった。春に上層大気が高温になった影響が残っていたためかもしれないと、オーストラリア気象局の科学研究員ハリー・ヘンドン氏は言う。
海と大気の高温が合体し、記録破りの高温が実現する条件が整った。そして2月第1週の終わりに、南極半島の地形が最後の一押しになった。(参考記事:「南極の棚氷が危ない、「両面」攻撃の脅威、研究」)