救助不可能地帯のウソ、誇張で得た名声と利益

<検証>疑惑の南極単独横断、冒険家に集まる批判 第5回

2020.03.02
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第1回から読む→「『世界初の快挙』、体験談は多くの矛盾を含んでいた」

南極の激しい風に削られてできたサスツルギ。そりを引くスキーヤーの行く手を阻み、航空機の着陸を困難にする。(PHILIPPE BOURSEILLER, THE IMAGE BANK, GETTY IMAGES)

 オブレイディ氏は、本のなかでも出演したテレビ番組でも、険しい地形のため救助が到達不可能な区間を長時間移動したと語ってきた。深く刻まれたサスツルギがあるところには航空機が着陸できず、「救助が不可能だった」と、本に書いている。

 また出発前のミーティングで、ALEの旅行安全管理担当者であるサイモン・エイブラハムス氏が地図を指さし、「ここで救助を求めても、私たちは到達できません」と告げたというが、エイブラハムス氏は自分がそんなことを言うはずはないと反論している。しかも、地図上で指さしたとされる辺りには例のマクマード南極点道路が走っており、「そこだったら車を運転して助けに行けます」と付け加えた。

 ラッド氏はナショナル ジオグラフィックに対し、「これまで3度南極探検に行きました。行く度に違うルートを使い、すべて合わせると移動距離は4830キロになりますが、一度も救助が不可能だと言われたことはありません」と答えた。(参考記事:「「嘘は見破れる」はウソだった 」

 最後の冒険に出発する前にナショジオのインタビューに答えたワースリー氏は、救助の可能性についてこう答えている。「ええ、それに関しては厳しく管理されています。24時間ごとにALEに連絡を入れなければなりません。ALEでは常に医者と軽飛行機が待機していて、2回連絡がなかった場合、最後に発信されたGPSの位置を頼りに捜索に出ることになっています」

 ボーイング737機の元機長で、辺境地でパイロットをした経験があるラバル・セント・ジャーメイン氏は、昨年南極点への単独スキーに挑戦した。「天候の良い平原での救助や出迎えは、ウーバーを呼ぶのと同じくらい簡単なことです」。衛星電話も通じるし、ALEは替えのテント、食料、その他の物資をどこへでも空輸できる。「最近では、極地の平原で完全に孤立していると感じることはありません」

かつては到達不可能と考えられていた南極点だが、今では研究センターが置かれ、年間を通して研究が行われている。冬には、約50人の科学者やスタッフがここで生活している。写真は、アイスキューブ・ニュートリノ観測所。(PHOTOGRAPH BY CHRISTINE DELL'AMORE, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 同じくALEの安全管理担当で、オブレイディ氏が出発する前にミーティングを行ったイアン・ラドキン氏も、「オブレイディ氏の冒険は最初から最後まで救助が届く範囲でした」と証言する。

「もっと危険で救助が難しい地域を通るルートも確かにありますが、彼のルートはこれまで多くの人が通ってきていますので、南極大陸のなかでは比較的安全なルートです」

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