新型肺炎、武漢から580キロの町が機能不全の実態

消えた労働者、バリケードを築いて進入拒む周辺の村々

2020.02.14
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 2月の頭から、王氏は永康や周辺の村々の様子を記録し続けている。杭州市や温州市など近郊の大都市で感染確定例が急増しているため、永康でも隔離措置が強化されている。

「火が燃え広がるようにウイルスが拡大しています」と、王氏は言う。2月1日は青空が広がり、この時期にしては珍しい陽気となった。数週間ぶりに気分が明るくなった王氏は、近くの公園へ散歩に出かけた。

「公園には、人が結構いました。何人かが集まって、トランプで遊んでいました。マスクをしていない人もいました」

 ところが、これを知った市当局は、翌日公園を閉鎖してしまった。それ以来、地方政府は、ウイルスの流行が収まるまで人の集まる場所を避けるよう呼び掛けている。「まだ闘いは終わっていません」と、王氏は言う。

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スーパーで生きた魚を選ぶ客に対応する店員。この店では、価格の引き上げはしないと客に約束し、食料品や日用品の補充を欠かさないようにしている。(PHOTOGRAPH BY ROBAN WANG, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 駅の出入り口も封鎖され、電車を降りてきた乗客全員に居住証の提示を求めている。永康の居住証がない乗客は町へ入ることが禁じられ、故郷へ戻るよう説得される。駅の近くには、ウイルス発生後に急ごしらえで建設されたホテルがあり、町へ入れない乗客は次の列車を待つまでの間ここに滞在できるようになっている。

 車で町へ入ろうとしても、高速道路の出口は一部を除いてすべて閉鎖され、地元の居住証を持っている人以外進入が認められない。周辺の町や村でも、一般道に住人たちがフェンスや竹でバリケードを築いたり、土を盛るなどして、外部の人間の進入を阻んでいる。

 市全体が、町を出るな、まだ戻ってくるな、というメッセージを発している。(参考記事:「新型肺炎、封鎖された武漢で一体何が起きているのか」

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スーパーに入る前に、客は全員マスクを着用し、検温を受けるよう求められる。(PHOTOGRAPH BY ROBAN WANG, NATIONAL GEOGRAPHIC)

「本当に頭が痛いです」と、ワン・ウェイワン氏は言う。工場は、賃貸料や銀行からの借入金、労働者の給料や社会保障費を払わなければならない。1日閉鎖が延びるごとに損失は膨れ上がる。その影響は中国だけでなく、海外にも広がろうとしている。例えばムーディーズの推測では、出張や観光、輸出品への需要が低下して、米国のGDPも930億ドル減少するとされている。

 ワン・ウェイワン氏は不安で夜も眠れないというが、取引相手が主に中国人なので、他社に比べるとまだいい方だという。知り合いの多くは、外国へ製品を販売する工場で働いている。

「発送が遅れることで被る損失は計り知れません。彼らにとって、経済的損失は倒産を意味します」

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2月4日、永康の高速鉄道駅近くで弁当を食べる出稼ぎ労働者たち。帰宅したくてもバスや電車は運休しているし、働き先の工場や建設現場もすべて閉鎖されているため、出稼ぎ労働者は行き場を失ってしまった。町はシェルターを建ててこうした人々へ日用品や食事を提供している。(PHOTOGRAPH BY ROBAN WANG, NATIONAL GEOGRAPHIC)

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:新型肺炎で封鎖、労働者消えた製造業の町に打撃 写真あと19点

文=Jane Qiu/写真=Roban Wang/訳=ルーバー荒井ハンナ

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