映画『ザ・ケーブ』が描く、シリアの窮状と勇敢な女性医師

内戦下で人々を救おうと奮闘する医師を追う、アカデミー賞候補のドキュメンタリー

2020.02.07
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
【動画】ザ・ケーブの紹介映像

 シリア人の医師アマニ・バロア氏は、自分はまだアカデミー賞のレッドカーペットにふさわしい服を持っていないのだと言って、肩をすくめた。アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされている映画『ザ・ケーブ(The Cave)』に登場する彼女にとって関心があるのは、洋服よりも、シリアの危機に世界の多くの視線が注がれることだ。(参考記事:「2014年3月号 シリア 終わらない内戦 首都ダマスカスの現実」

 米国に到着した直後のバロア氏によれば、このドキュメンタリー映画は、「人道に反する罪に対する、わたしたちの証言です。シリアで実際にあったことであり、今も起こっていることです。世界中の人たちがアカデミー賞を知っています。この映画が広く知られて、多くのみなさんに見てもらえれば、シリアの真実が世界に伝わるでしょう」

『ザ・ケーブ』では、監督のフェラス・ファヤード氏、プロデューサーのカースティン・バーフォド氏、シグリーズ・デュクイェ氏が、若き医師バロア氏とそのスタッフに2年以上にわたって密着。彼らがシリア内戦中に急場しのぎに地下に作った病院で、1カ月に5000人以上の患者を治療する様子を撮影した(映画は、ナショナル ジオグラフィックが配信)。故郷である東グータの街が包囲され、爆撃を受けるなか、減り続ける食料、物資、医薬品をどのように分配するかは、シリア初の女性病院長であるバロア氏に任されていた。(参考記事:「泣く女性、ピュリツァー2013」

 8年以上にわたり、バッシャール・アル=アサド大統領政権下のシリアは、荒廃の一途をたどってきた。内戦による死者は推定38万人以上、負傷者数は200万以上にのぼる。(参考記事:「ISが破壊した世界遺産パルミラ、在りし日の姿」

「お腹をすかせて栄養失調になり、複数の感染症にかかっているのに、薬がないために何もしてあげることができない子供たちの姿を見てきました」とバロア氏は言う。「辛かったです。わたしは子供たちを助けてあげることができませんでした」。この映画には、シリア内戦においてもとりわけ痛ましい残虐行為が記録されており、その中には1400人の死者を出した2013年の化学兵器攻撃も含まれている。このときの犠牲者の多くが子供たちだった。

シリアが内戦状態に陥るなかで、地下に作った病院を運営していたアマニ・バロア医師は、オスカー候補となった映画『ザ・ケーブ(The Cave)』をきっかけに、母国の惨状が人々の目に届くことを願っている。「この映画は、人道に対する罪への、わたしたちの証言です」とバロア氏は話す。(PHOTOGRAPH BY ESLAH ATTAR, NATIONAL GEOGRAPHIC)
[画像のクリックで拡大表示]

 シリア内戦の被害を受けた何万人もの人々と同様、バロア氏も2018年にトルコへと逃れた。バロア氏の故郷、東グータを離れてから2年の間に、彼女は結婚し、国際的にも評価された映画に登場する人物として知られ、基金を設立。現在、彼女はシリアの惨状を伝えるために、世界中を飛び回っている。(参考記事:「歴史を変えた、心揺さぶる子どもたちの写真」

 人生で最も長かったというフライトを経て、現在32歳になったバロア氏は2月2日、初めて米国を訪れた。この一週間はニューヨークからロサンゼルスまでの各地で、『ザ・ケーブ』と、この映画の舞台であるシリアを取り巻く実情を人々に訴えた。その後は、フロリダで開かれるシリア系米国人医学会の会合で医師たちに会い、自身が立ち上げた団体でプロジェクトに取り組む予定だ。ちなみにバロア氏が設立したプロジェクト「アル・アマル」(アラビア語で希望の意)は、紛争地帯にいる女性たちを支援する団体だ。

次ページ:「映画を見たとき、わたしは泣きました」

ザ・ケーブ

シリア内戦により荒廃した街の下には地下病院があった。病院の責任者である女性医師のアマニ・バロアを中心に、そこで生きる人々が困難に立ち向かい結束する姿を追う。

ここから先は「ナショナル ジオグラフィック日本版サイト」の
会員の方(登録は無料のみ、ご利用いただけます。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け
  • このエントリーをはてなブックマークに追加