アフリカ人が持つネアンデルタール人DNAの一部は、別方向の遺伝的混合にも由来している。現代の非アフリカ人の大半は約6万年前にアフリカを出た現生人類を祖先に持つが、アフリカを出た現生人類は彼らが初めてではなく、20万年以上前にもいた可能性があるからだ。(参考記事:「人類の出アフリカは18万年前?定説覆す化石発見」)
これらの初期の放浪者は、おそらく10万年以上前にネアンデルタール人と交雑し、自分たちの遺伝子の痕跡をネアンデルタール人のゲノムに残していったと考えられる。アフリカ人が持つネアンデルタール人由来のDNAには、この交雑の痕跡も残されているかもしれない。(参考記事:「「アフリカ以外で最古の現生人類発見」に異論百出」)
「遺伝子の流れは双方向だったのです」とエイキー氏は言う。「現代人のゲノムの中にあるネアンデルタール人の配列のなかには、ネアンデルタール人の中にあった現生人類の配列もあるのです」
興味深いことに、新しい分析法により、現代ヨーロッパ人のゲノムの中に、これまで見落とされていたネアンデルタール人由来のDNAが新たに発見された。これまでヨーロッパ人と東アジア人の間には、ネアンデルタール人由来のDNAの割合に20%もの差があるとされてきたが、それが縮小した。
今回の分析は、両者の差が8%未満であることを示唆している。「つまり、私たちが持つネアンデルタール人由来のDNAのほとんどが、共通の歴史から来ているということです」とエイキー氏は言う。
物語は一直線ではない
とはいえ、まだ多くの疑問が残っている。私たちが見落としているネアンデルタール人由来のDNAは、まだあるのだろうか?
ホークス氏は「もちろんあります」と即答する。今回の研究には、シベリアの洞窟で発見されたネアンデルタール人のゲノムが使われている。だが彼らは、私たちがDNAを受け継いだネアンデルタール人とは別の集団と考えられている。エイキー氏によると、新しい分析法はこうした集団の差を検出できるほど精度が高いわけではないため、わずかに異なるDNAが含まれている可能性はあると言う。
今回の研究により、アフリカ人が持つネアンデルタール人由来のDNAがどこから来たのか、納得のいくデータが得られたと、米コールド・スプリング・ハーバー研究所の集団遺伝学者アダム・シーペル氏は評価する。氏は、この手法をもっと大勢の現代アフリカ人に適用して、アフリカ各地の人々が持つネアンデルタール人由来のDNAにどのようなばらつきがあるのかを、より詳しく明らかにしたいと考えている。
今回の研究は、近年行われている他の遺伝子分析と同様、ヒト族の間で常に交雑と移動が起きていたことを示しており、人類史の物語を絶えず評価し直す必要があることを示唆している。
「それぞれの形態がそれぞれの物語を語っている可能性があります」とホークス氏は言う。「私たちは、物語をそのままの形で受け入れなければなりません。現生人類とその進化の歴史を、単純な一直線のストーリーに無理やり押し込めようとしてはいけません」