朝飲んでいる紅茶が、アジアのゾウを危険にさらしている可能性があると聞けば、たいていの人が驚くことと思う。インド北東部のアッサム州にある香り高い茶葉を育てる茶畑が、そこを歩くゾウのけがの原因となることがあり、中には死んでしまうゾウまで出ている。
茶は水に次いで、2番目にポピュラーな飲み物だろう。インドにおける茶の生産量は、2016年には過去最高の127万トンに達した(中国に続き世界第2位)。
アッサム州の茶畑は大半が平地にある。水はけをよくするために排水溝を設けることがあるが、この排水溝に幼いゾウが落ちて脚の骨を折ってしまうことがある。そして、こうしたゾウはけがのために、群れからはぐれてしまうことになるのだ。
政府が支援する野生生物保護プログラム 「プロジェクト・エレファント」 のメンバーで、獣医師のクシャル・コンワル・サルマ氏によると、アッサム州では毎年約100頭のゾウが、中毒や感電などの不自然死を遂げているという。そして、そうしたゾウのうち8〜10頭が、茶畑の排水溝への転落が原因だというのだ。 (参考記事:「【動画】茶畑でゾウが突進、追い払うのは命がけ」)
過去20年で、自然保護団体「インド野生生物トラスト」の獣医師は、181頭の子ゾウを治療したが、そのうち42頭が排水溝に関連したけがだった。ボルジュリ村にある同団体のリハビリ施設の主任獣医師、N・V・アシュラフ・クンフヌ氏によると、元の群れに戻すことができたのは、そのうちわずか18頭だった。家族のもとに戻れなかった子ゾウは、人間によって育てられ、リハビリが成功すれば野生に戻される。
絶滅危惧種で、アフリカゾウよりも危機的な状況にあるアジアゾウの数は、過去75年間で少なくとも半減したと、国際自然保護連合(IUCN)は見ている。2003年の推定値では、インドにいる野生のアジアゾウは約3万頭。サルマ氏によると、アッサム州には約5700頭がいるという。(参考記事:「研究室 実はゾウの楽園だった日本列島」)
ゾウの保護に配慮した農園の茶を消費者に選んでもらうための取り組み「エレファント・フレンドリー・ティー」の共同創始者、リザ・ミルズ氏によると、アッサム州内のゾウの生息地には、広範囲にわたって茶畑が広がっているという。そのため、ゾウが茶畑の中を通ることは珍しいことではない。「これでは事故が起こらないほうが不思議です」とミルズ氏は話す。
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