円盤にぶつかったX線が遅れて届く
味気ない名称で呼ばれてはいても、IRAS 13224-3809は中心領域がX線やガンマ線を非常に多く放出する「活動銀河」のひとつで、X線で見る空の中ではとりわけ興味深い銀河のひとつだ。そしてX線の明るさが、ときとしてわずか数時間の間に50倍から50分の1にまで変動する。アルストン氏らがこの銀河を研究対象に選んだのは、活発にエネルギーが変動するため、中心にある超大質量ブラックホールの特徴を突き止めやすいからだ。
研究チームは、欧州宇宙機関のX線観測衛星「XMM-Newton」を用いてIRAS 13224-3809の観測を行った。地球を周回しながらX線で宇宙を観測している「XMM-Newton」 は、2011年から2016年にかけて、軌道を16回めぐる間に、合計550時間以上にわたってIRAS 13224-3809を観察した。(参考記事:「銀河団を結ぶ「糸」を初めて観測、長さ900万光年」)
長時間におよぶこの観測データを基に、アルストン氏らは、超大質量ブラックホールのX線コロナと円盤をマッピングした。放出されるX線の一部は、直接宇宙に向かうが、その他のX線は円盤にぶつかって、ブラックホール周辺の環境を抜け出すまでにやや遠回りする。(参考記事:「銀河系の中心に星の墓場を発見、謎のX線を放出」)
「この道草が、コロナで生成されたX線同士の間に、時間の遅延を生じさせます」と、アルストン氏は言う。「そのエコー、つまりは時間の差をわたしたちは測定できるのです」
「反響マッピング」と呼ばれるこの技術が、ブラックホール周辺のガス状物質を詳細に調べることを可能にした。アルストン氏は反響マッピングについて、コウモリなどの動物が、音を物体に反射させて飛行中の動きの手がかりとするエコロケーションと似た技術だと説明する。また、地球から近いブラックホールを撮影するためにEHTが用いた技術とは異なり、反響マッピングは極めて遠い天体にも利用でき、事象の地平線により近い領域も調べられる。(参考記事:「ブラックホールは食べ残しを投げ捨てるとの新説」)
「反響マッピングは、空間分解能にまったく依存しません」。同じ技術を使って遠方のブラックホールを研究している米ジョージア州立大学のミスティ・ベンツ氏はそう述べている。「この技術では物体内部での光エコーを利用して、その構造を示せます。それは天体が非常に遠くにある場合でも変わりません」
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