厳戒続くフィリピンの火山噴火、専門家の見解

40年間休眠状態、過去には千人以上が犠牲になった噴火も

2020.01.15
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 タール火山の噴火は、火山島に住む人々だけでなく、火山から100キロ以内に住んでいる2500万人にとっての問題だ。強い火山性地震や噴火活動が続いていることから、フィリピン火山地震研究所(PHIVOLCS)は警戒レベルを4に引き上げている。これは、数時間から数日以内に非常に危険な噴火が起きる可能性があることを意味する。

過去の噴火から将来を予測

 過去の噴火は、タール火山を読み解く手がかりになる。米スミソニアン協会の世界火山プログラムでデータベースを管理しているエド・ベンツク氏によると、タール火山で直近の噴火があったのは、1977年に発生した小規模な水蒸気噴火だ。(参考記事:「本当に恐ろしい「カルデラ噴火」とは」

 ここ40年間は噴火していないが、火山の危険に詳しい英ケンブリッジ大学のエイミー・ドノバン氏によると、この火山は「非常に長い間、明らかに活動している」という。タール火山の噴火は、他の火山の噴火に比べればたいていは穏やかだが、それでも強い爆発を伴いがちで、近隣に住んでいる人は多く、惨事に至ることが多い。(参考記事:「古代の超巨大噴火、人類はこうして生き延びた」

【参考動画】火山101
世界には約1500の活火山が存在する。主な火山の種類、噴火の背後にある地質学的過程、史上最も破壊的な噴火が発生した場所について説明する。(解説は英語です)

 火山灰も、事態を悪化させる。水質を悪化させ、電力網に被害を与え、農業を停滞させ、家畜やペットを殺すからだ。大量に吸い込めば、人も死ぬ可能性がある。特に危険なのは、子どもや高齢者、呼吸器系の疾患を抱える人だ。

 マグマと水が反応して発生する爆発であろうと、マグマの活動のみによる爆発であろうと、タール火山では火砕流(噴き出した高温のガス、灰、岩石が高速で斜面を流れ落ちる現象)が発生し、一瞬で大勢の被害が出ることもあった。イタリア国立地球物理学火山学研究所の火山学者であるボリス・ベーンケ氏は、タール島で1335人の死者を出した1911年の噴火を含むいくつかの事例をツイッターに投稿している。(参考記事:「命を奪う火砕流、猛スピードの原因を解明」

最悪のシナリオは?

 考えられる最悪のシナリオは、火砕流だけでなく、ガス成分の多い火砕サージが発生することだ。ドノバン氏によると、火砕サージは横殴りの爆風に乗って文字どおり湖面上を滑走するという。これが起きると「対岸も含め、通り道にあるものはすべて破壊されることもある」と、バーテル氏は言う。

 さらに、爆発によって火山島の一部が崩壊してタール湖に落下すると、津波が発生して湖岸がのみこまれる可能性がある。2018年12月にインドネシアのアナク・クラカタウで起きた噴火でもそうだったが、わずかな崩落であっても壊滅的な津波が起きる可能性がある。(参考記事:「インドネシアの火山津波 警報が出なかったわけ」

 もちろん、噴火の予測は困難だ。ドノバン氏は、1977年の噴火以来、タール火山の下にあるマグマの特性がどのように変化しているかはわからないと指摘する。今回最大の噴火はすでに起こった可能性もあり、「少しばかり降灰と溶岩噴出があっただけで、再び休眠することも考えられます」と言う。(参考記事:「予知できる噴火、できない噴火」

 あるいは、英エクセター大学の地球物理学および火山学者のジェームズ・ヒッキー氏が話すように、長期にわたる連続噴火が始まったのかもしれない。爆発の規模が大きくなれば、前述のような被害が発生する可能性がある。

 いずれにしろ地域に住む人々は、最悪のシナリオを想定して良識的で責任ある行動を取るべきだとドノバン氏は言う。まだタール火山の周辺にいて避難指示に従っていない人は、即座に火山に近い低地を離れるべきだ。そして、地元当局の最新情報に注意しよう。

 しばらくの間、火山学者たちは息を殺して待つことになる。過去の教訓から、この火山の危険性はよくわかっているからだ。

参考ギャラリー:流れるマグマ、立ち昇る噴煙、荒ぶる地球の迫力を実感 世界の活火山 写真13点(画像クリックでギャラリーへ)
参考ギャラリー:流れるマグマ、立ち昇る噴煙、荒ぶる地球の迫力を実感 世界の活火山 写真13点(画像クリックでギャラリーへ)
インドネシアのアナク・クラカタウ山。とても活発な火山で、数年おきに噴火する。(PHOTOGRAPH BY STOCKTREK IMAGES, INC./ALAMY)

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文=ROBIN GEORGE ANDREWS/訳=鈴木和博

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