ハシナガチョウザメ(Psephurus gladius)や近い仲間が地球上に登場してから2億年以上になる。中国、長江(揚子江)を生息域とし、体長7m以上になるこの魚は、想像を絶する大変動を生き抜いてきた。恐竜や首長竜などが大量絶滅した時代にも耐えた。顕花植物(花を咲かせる植物)が進化したのも彼らの登場以後であり、長江の川岸にも繁茂するようになった。
それから竹が、もっと後にはジャイアントパンダが登場した。さらにここ数千年で(進化の歴史ではほんの一瞬だ)陸地は人間であふれ、中国の人口は世界一になった。一方、ハシナガチョウザメは太古の昔と変わらず、長江の濁った水の中で、刀のように長い鼻先を使って電気信号を探知し、甲殻類や魚などの獲物を捕らえて暮らしていた。(参考記事:「動物大図鑑 ハシナガチョウザメ」)
しかし、「長江のパンダ」とも呼ばれるこの古い魚は、人間の脅威を耐え抜くことはできなかった。2019年12月23日付けで学術誌「Science of the Total Environment」に発表された論文は、ハシナガチョウザメが絶滅したと結論づけている。主な原因は乱獲とダム建設だ。
「非難に値する、取り返しのつかない損失です」と、研究チームを率いた中国水産科学研究院の危起偉氏は言う。この魚を何十年も探し続けてきた科学者の1人だ。
米ネバダ大学リノ校の魚類生物学者で、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラーであるゼブ・ホーガン氏も「とても悲しいことです」と嘆く。「非常にユニークですばらしい動物が、決定的に失われてしまいました。彼らが戻ってくる見込みはありません」。なお、氏は今回の研究には関わっていない。
ホーガン氏は、ハシナガチョウザメの絶滅が人々の危機意識を高め、ほかの淡水魚を保護する動きにつながることを期待している。氏が専門にしている大型魚類は特に危険な状況にあり、巨大淡水魚のほとんどが絶滅の危機にさらされているという。(参考記事:「世界の巨大淡水生物、40年間で約9割も減っていた」)
「ハシナガチョウザメは絶滅しましたし、ほかにも多くの巨大淡水魚が危険な状態にあり、このままでは絶滅してしまうおそれもあります。しかし、早めに手を打てば衰退を食い止められるかもしれません」と氏は訴える。(参考記事:「巨大魚フォトギャラリー:瀬戸際の巨大魚たち」)
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