【解説】最大級の淡水魚ハシナガチョウザメが絶滅

体長7m、体重450kgに及ぶ中国長江の固有種、「2010年までに絶滅」と論文

2020.01.10
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生きたハシナガチョウザメ(Psephurus gladius)は2003年を最後に目撃されておらず、絶滅したと考えられる。捕獲や目撃例が少なく、写真をほとんど残さないまま早すぎる死を迎えた。(PHOTOGRAPH BY QIWEI WEI)
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 ハシナガチョウザメ(Psephurus gladius)や近い仲間が地球上に登場してから2億年以上になる。中国、長江(揚子江)を生息域とし、体長7m以上になるこの魚は、想像を絶する大変動を生き抜いてきた。恐竜や首長竜などが大量絶滅した時代にも耐えた。顕花植物(花を咲かせる植物)が進化したのも彼らの登場以後であり、長江の川岸にも繁茂するようになった。

 それから竹が、もっと後にはジャイアントパンダが登場した。さらにここ数千年で(進化の歴史ではほんの一瞬だ)陸地は人間であふれ、中国の人口は世界一になった。一方、ハシナガチョウザメは太古の昔と変わらず、長江の濁った水の中で、刀のように長い鼻先を使って電気信号を探知し、甲殻類や魚などの獲物を捕らえて暮らしていた。(参考記事:「動物大図鑑 ハシナガチョウザメ」

 しかし、「長江のパンダ」とも呼ばれるこの古い魚は、人間の脅威を耐え抜くことはできなかった。2019年12月23日付けで学術誌「Science of the Total Environment」に発表された論文は、ハシナガチョウザメが絶滅したと結論づけている。主な原因は乱獲とダム建設だ。

「非難に値する、取り返しのつかない損失です」と、研究チームを率いた中国水産科学研究院の危起偉氏は言う。この魚を何十年も探し続けてきた科学者の1人だ。

ハシナガチョウザメ(Psephurus gladius)がもつ剣のように長い鼻先には、獲物となる甲殻類などが発する微弱な電気を検知するための細胞が詰まっている。生息域は広く、長江流域全体のほか、東シナ海に出ることもあった。(PHOTOGRAPH BY FLHC1, ALAMY)
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 米ネバダ大学リノ校の魚類生物学者で、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラーであるゼブ・ホーガン氏も「とても悲しいことです」と嘆く。「非常にユニークですばらしい動物が、決定的に失われてしまいました。彼らが戻ってくる見込みはありません」。なお、氏は今回の研究には関わっていない。

 ホーガン氏は、ハシナガチョウザメの絶滅が人々の危機意識を高め、ほかの淡水魚を保護する動きにつながることを期待している。氏が専門にしている大型魚類は特に危険な状況にあり、巨大淡水魚のほとんどが絶滅の危機にさらされているという。(参考記事:「世界の巨大淡水生物、40年間で約9割も減っていた」

「ハシナガチョウザメは絶滅しましたし、ほかにも多くの巨大淡水魚が危険な状態にあり、このままでは絶滅してしまうおそれもあります。しかし、早めに手を打てば衰退を食い止められるかもしれません」と氏は訴える。(参考記事:「巨大魚フォトギャラリー:瀬戸際の巨大魚たち」

【動画】絶滅の危機に瀕する中国のチョウザメとハシナガチョウザメ(解説は英語です)

次ページ:決定的なダメージを与えた葛洲ダム

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