世界で一番孤独な木の物語、ニュージーランド

「絶滅は確実」とされた、世界に1本しかない木、復活を目指す科学者の奮闘

2019.12.28
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「世界で最も孤独な」カイコマコの葉。スリー・キングズ諸島に唯一残された野生の木に起源を持ち、ニュージーランド本土で何百本に増えつつある。(PHOTOGRAPH BY BRADLEY WHITE, MANAAKI WHENUA)
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 ニュージーランドの北端から約60キロの海に浮かぶスリー・キングズ諸島に、「世界で最も孤独」と言われる1本の木がある。見つかってから70年のときを経て、この木はついにその肩書きを失うかもしれない。朗報だ。

 科学者と先住民マオリの一部族、ンガティ・クリ族から成るチームが、最近、保全に向けた調査を終えてこの島から戻ってきた。また、ンガティ・クリ族のメンバーは2019年、カイコマコの苗木80本をニュージーランド本土に植えた。

 こうした進展が見られたのは、2つの重要な問題に向き合ったからだ。受粉相手のいない木をどうやって救うのか、その仕事を誰が担うかだ。

ヤギの導入と実をつけない木

 カイコマコの木の物語は、その故郷の物語とよく似ている。困難かつ、幸運に恵まれた物語だ。

 1945年、スリー・キングズ諸島(マオリ語でマナワタウィと呼ばれる)の最も大きな島で、野生のカイコマコの木が1本発見された。最も大きな島といっても面積は4平方キロほど。このカイコマコは、完全に独りぼっちだった。(参考記事:「ギャラリー:はるばる訪れる価値がある、世界の象徴的な木 19選」

 責任はヤギにある。

 1889年、難破船の乗組員と思われる人が、食料源として4頭のヤギを島に持ち込んだ。ヤギはどんどん増え、1946年に外来種として根絶されるまでに100倍にも膨れ上がっていた。

 ヤギたちは島の植物を食べ尽くし、複数の種が絶滅に追い込まれた。だがカイコマコは、ヤギがいた一帯より200メートルほど高い岩だらけの急斜面に生えていたため、生き延びた。

 カイコマコを貴重な植物と考える科学者もいた。1度の大嵐で消滅しかねない、ニュージーランドの遺産だと。その一方で、カイコマコが本当に「孤独」かどうかを疑問視する科学者もいた。どこにでもある木の1本が辺境に生えているだけで、特に気に掛ける必要などないと。

 分類に関する議論が何十年も続き、最終的にこのカイコマコはPennantia baylisianaという固有種であると結論づけられた。Pennantia baylisianaと近縁のカイコマコは、雌雄異株、つまり、雄花をつける個体と雌花をつける個体に分かれている。これは、個体数が1つしかない木にとっては解決不可能な問題だ。

「この個体は特殊だったのです」と、かつてオークランド近郊で園芸店を営んでいたジェフ・デイビッドソン氏は語る。

参考ギャラリー:はるばる訪れる価値がある、世界の象徴的な木 19選(画像クリックでギャラリーへ)
ニュージーランド、まるで湖の底から生えてきたようなヤナギの木。1000年近く前からフランスの聖地に立つ古木や、サッカー場を覆いつくすほど枝葉を広げたブラジルのカシューの木など、はるばる訪れる価値がある世界の木々を紹介する。 (PHOTOGRAPH BY MARTIN VALIGURSKY, ALAMY)

次ページ:孤独なカイコマコは「特殊」だった

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