他の多くの鳥より遺伝的多様性が高かった
幸いなことに、科学者たちはスペインのジローナに個人コレクションとして保管されていたカロライナインコの標本から大腿骨と趾蹠(しせき、哺乳類などの肉球にあたる)のサンプルを得られた。標本は20世紀初めに収集されたものとみられている。だが、そのDNAは保存状態が悪く、断片化していてそのままでは解読できなかった。
そのため研究グループは、先に現生の近縁種のゲノムを解読しなければならなかった。南米にいるコガネメキシコインコ(Aratinga solstitialis)だ。
「古い生物のDNA研究で、近縁種のゲノムを参照して配列をあてはめる必要が出てくることはよくあります」。こう説明するのは、論文の共著者で、スペイン、バルセロナにあるポンペウ・ファブラ大学の生物学者、カルレス・ラルエサ=フォックス氏だ。(参考記事:「ヨーロッパ諸語のルーツは東欧。DNA分析で判明」)
「同じ理由で、マンモスのゲノムでもアジアゾウを参照しています」と、ラルエサ=フォックス氏はEメールで語っている。(参考記事:「マンモス復活?絶滅種再生の可能性」)
ラルエサ=フォックス氏らの研究グループは、両種のDNAを解析。すでにゲノム配列が分かっている他の多くの鳥と比較し、カロライナインコとコガネメキシコインコが異なる種に分かれたのが、約300万年前だと明らかにした。
研究グループはまず、近親交配の目印を探した。動物の遺伝子のなかから簡単に見つけ出せて、その種が突然に絶滅するのではなく、むしろゆっくりと衰退中という手掛かりになる(進化の時間軸で話す場合、数百年でも十分「突然」という意味になるだろう)。すると、カロライナインコの標本に、近親交配の兆しは見られなかった。
実際のところ、カロライナインコのゲノムは、今生きている多くの鳥類よりも遺伝的多様性が高かった。このことは「絶滅の過程が急激で、カロライナインコのゲノムに衰退の痕跡が残らなかったことをうかがわせます」と、ラルエサ=フォックス氏。
この鳥が失われた要因として、家禽を介して伝染した病気の可能性も挙がっていたが、ラルエサ=フォックス氏によると、これも遺伝子解析では分からなかったという。とはいえ、カロライナインコの絶滅に伝染病が関わっていた可能性は依然として残っている。
将来の絶滅を止めるために
「私を含めたカロライナインコの研究者たちの間では、直接的・間接的に、人間活動がこの鳥の絶滅につながったという点でおおむね意見が一致しています」と、バージオ氏は言う。
バージオ氏は歴史資料や博物館の標本を調べ、この絶滅種の生態をモデル化してきた。そして、カロライナインコの実際の生息域が従来考えられていたよりも狭かったことや、東部と西部に分かれて2つの亜種が生息しており、それぞれの気候が異なっていたことを示唆している。(参考記事:「キーウィは氷河期に爆発的進化、氷河が群れ分断」)
バージオ氏は、これから発表する予定の査読前の論文で、カロライナインコの両亜種が絶滅した時期に、少なくとも30~40年の開きがあった可能性が高いと主張している。加えて指摘するのは、産業が急速に拡大したなど、この鳥が絶滅に向かった時の状況が、今日の私たちが暮らす、都市化が進む世界とよく似ているということだ。(参考記事:「森を追われたインコ、ブラジルの都会を飛び交う」)
だからこそ今回の研究は、人間のどのような行動がさまざまな種の数を減らしてしまうのかに目を向けることが、差し迫って必要だとはっきり告げているのだ、とバージオ氏は言う。そのおかげで、カロライナインコの二の舞いを避けられるかもしれないのだから。(参考記事:「哺乳類の多様性、回復に数百万年、今の大量絶滅で」)
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