米バージニア州、ブルーリッジ山脈のふもとに広がる牧場には、ウシたちが近づけない場所が1カ所だけある。
ミドル川だ。広さ16ヘクタールの牧場内を曲がりくねって流れる川のそばには、イタチハギが頭上高く茂り、トゲのあるブラックベリーがびっしりと覆い、ヒッコリーやシカモアといった広葉樹も並んでいる。
牧場主であるボビー・ホワイトスカーバー氏とその妻ジーン・ホフマン氏は、15年かけてこの「植物の壁」を作り上げた。すべては、ウシの進入を阻むためだ。(参考記事:「温暖化に朗報か メタン排出少ないウシの秘密解明」)
「ウシを締め出した後、驚くほどの速さで川は元の姿を取り戻しました」と、ホワイトスカーバー氏は言う。今では、在来種のカワマスが泳ぎ、健全な川の指標であるトビケラほかさまざまな水生昆虫が暮らしている。
しかし、昔から川は健全だったわけではない。
ウシたちを川で自由に歩き回らせていた頃は、ウシのひづめが川底の沈殿物をかき回すせいで、水生生物の数が減少した。排泄物の問題は、さらに深刻だった。ウシの糞には窒素とリンが含まれており、これが川の先にあるチェサピーク湾に流れ込んで、有害な藻類を過剰に繁殖させることがある。(参考記事:「有毒な藻の大繁殖、各地で増加のおそれ」)
それ以外の汚染物質も、糞と一緒に流出する。たとえば家畜に投与される抗生物質、駆虫薬、痛み止めなどだ。ホワイトスカーバー氏の場合、こうした薬剤はめったに使用せず、使うとしても病気にかかった個体に限るようにしている。ただし、こうした努力をする畜産家はほんの一部だ。