シャチが閉経後に長生きするのは「孫のため」

孫378頭の一生を分析、シャチにも「おばあちゃん効果」、研究

2019.12.11
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 国際自然保護連合(IUCN)はシャチを「データ不足」に分類し、絶滅リスクの評価が難しいとしている。しかし、もっとも研究が進んでいる太平洋岸北西部を含め、シャチの生息数は減少傾向にある。主な原因は、有毒化学物質であるPCB、主な獲物であるキングサーモン(マスノスケ)の減少、そして船舶による騒音被害という3つの問題だ。(参考記事:「シャチを脅かす亡霊、禁止された有毒化学物質」「シャチを悩ませる船の騒音問題」

「これはとても重要な研究です」と、米ワシントンD.C.にあるジョージタウン大学の動物行動学者のジャネット・マン氏は言う。「ですが、おばあちゃんシャチの役割の一端を解き明かしたに過ぎません」。なお氏は今回の研究に関わっていない。

「おばあちゃん効果」とは

 ヒトの女性の閉経は、長いこと科学者たちの興味を引いてきた。通常、女性の平均寿命は男性よりも長い。しかし、女性は子どもを産まなくなってから何十年も生きる一方、男性は死の直前まで子どもをもうけられる。

参考ギャラリー:賢いハンター、シャチの写真13点(画像クリックでギャラリーへ)
参考ギャラリー:賢いハンター、シャチの写真13点(画像クリックでギャラリーへ)
深海でニシンの群れを駆り立てるシャチ(ノルウェー、アンフィヨルド)(Photograph by Paul Nicklen, National Geographic Creative)

「男性に閉経はありません。最後まで、多少の精子が存在します」とマン氏は言う。(参考記事:「ヒトの精子の動き、初の3D追跡」

 進化という観点で見れば、これは筋が通っている。一方で、繁殖能力を失ってから数十年ほど生きるのは腑に落ちないとマン氏は話す。自然選択を考えるなら、女性も子孫をできるだけ多く残す方が有利なはずだ。

 進化生物学者たちは、このジレンマを説明する仮説をいくつも立ててきた。その1つに、閉経が起これば、祖母と母がそれぞれの子どもを養うために稀少な食料をめぐって争うことを避けられるというものがある。年をとってから子どもを産むことは、その母子にとって危険なうえ、すでに生まれている子どもにまで危険が及ぶことにもなる。(参考記事:「初めて野生に戻されたシャチ、母親に」

 そこで登場するのが、「おばあちゃん仮説」だ。米国の人類学者であるクリスティン・ホークス氏による、現在もタンザニアで狩猟や採集をして暮らすハッザ族の研究などで、広く知られるようになった。これによると、おばあちゃんが食料の確保や子守りなどを助けることで、孫の生存率が大幅に向上する。(参考記事:「特集ハッザ族 太古の暮らしを守る」

 この説は、多くの研究に支持されている。その一例が、産業革命前の時代に生きたフィンランド人とカナダ人のデータを2004年に分析したものだ。そこでも、おばあちゃんがいる孫の方が、成人になるまで生存する割合がはるかに高かった。(参考記事:「骨から探る人類史~思いやりの心を未来の子孫に向ける」

次ページ:40年分以上のデータを徹底的に分析

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