ロシア、シベリア北西部の北極圏に位置するヤマル半島は、全域にツンドラ湖が広がっている。(PHOTOGRAPH BY JEFFREY KERBY)
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 グリーンランド西部で26年にわたり、季節の推移を定点観測しているエリック・ポスト氏は、その間大きな変化を目撃した。当初は何百頭ものトナカイが丘を埋め尽くしていたのが、今では90頭ほどに減ってしまったのだ。

「来春になればまた増えるだろうと思いつつ年が過ぎていき、気がつけば、かつてのような大きな群れではなくなっているのです」と語るポスト氏は、生態学者として米カリフォルニア大学デービス校で気候変動を研究している。

 世界の気温が2℃上昇したとき、北極と南極はどうなっているのかを報告する新たな論文が、12月4日付けで学術誌「Science Advances」に発表された。それによると、すでに北極は温暖化した世界を先取りしており、近いうちに誰もがその影響を目にすることになるという。

「緩和措置を直ちにとらなければ、今後20〜40年で、北極が加速度的に温暖化する段階に入るでしょう」と論文の著者であるポスト氏は警告する。論文は、複数の国から幅広い分野の科学者が共著者に名を連ね、両極の温暖化が現在と未来に及ぼす影響を検証する内容だ。

温暖化を先取りする北極

 北極では、地球上のどこよりも速く温暖化が進んでいる。この10年だけで北極の気温は1℃上昇した。論文によると、温室効果ガスの排出がこのままのペースで続けば、北極地方の気温は今世紀半ばに年平均で4℃高くなる。特に秋は最も変化が大きく、気温は7℃上昇するという。同じ頃に地球全体の平均気温は2℃上昇するとみられているが、これは悲惨な影響が生じるかどうかのしきい値とされることが多い。(参考記事:「地球が「臨界点」超える危険性、気候科学者が警鐘」

 すでに北極地方では、先例のない変化がいくつも起きている。陸と海での氷の大規模な減少や、永久凍土の融解、森林火災、季節外れの嵐、春の訪れの早まりなどだ。今年の夏の海氷面積は、人工衛星による観測が始まった1979年以降で2番目の小ささとなった。また、7月の暑さで、グリーンランドの氷床から数十億トンの氷が解けた。森林火災はアラスカからシベリアにかけて数百万ヘクタールを焼き尽くした。(参考記事:「グリーンランドの氷床で異変が拡大、流出加速」

「近年の北極地方の温暖化は、すでに広い範囲に明らかな影響を及ぼしていますが、さらに温暖化が加速した状況ではこんなものでは済まないのです」とポスト氏は言う。

 北極でも南極でも、数々の憂慮すべき変化が生じている。しかし、変化が格段に速いのは北極だ。近い将来、北極の温暖化の影響が高緯度地域にとどまらず、はるかに広い範囲で感じられるようになると論文は警告している。

次ページ:予想以上に速いペースで海氷が消えている

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