北極は数十年で4℃上昇、温暖化は加速モードに

危険な2℃シナリオの行方、「北極の声に耳を傾けよ」と研究者

2019.12.10
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 北極ではすでに季節が狂いつつある。春の訪れがどんどん早くなり、植物がどんどん成長するため、ツンドラの動物たちが繁殖地にやって来る頃には、彼らが食べる植物の栄養分はピークを過ぎてしまっている。花は、花粉を運ぶ昆虫たちがやって来る前に咲いてしまい、渡り鳥は、植物の新芽が出る時期に間に合わない。今回の論文によると、季節の変化は加速していて、将来的には生態系の適応力を超えるおそれがあるという。

 北極の温暖化はさらに、海の食物網を破壊し、ホッキョクグマやアザラシを死に至らせ、この地域の先住民の暮らしを脅かすおそれがある。明るい展望を1つ挙げれば、クジラは今のところ、海氷が減少したことで活動範囲が広がり、恩恵を受けているようだ。(参考記事:「大量死ウイルスが拡大、北極の海氷減少で? 研究」

南極は北極よりも温暖化が遅い

 北極の気温が急上昇しているのに対し(論文によると、今世紀末には季節によっては13℃も高くなる可能性がある)、南極の温暖化はこれまでのところ、一部地域を除いて世界平均と同程度だ。

 北極も南極も変わりつつあると、ペンシルベニア州立大学の雪氷学者で南極の専門家であるリチャード・アリー氏は言う。「ただし、そう単純な話ではなく、両極が同じように変わるわけではありません。北極と南極は別物だからです」

 南極大陸は広大な南極海に囲まれている。その南極海が、大気の余分な熱の多くを吸収しているのだ。「熱は海に吸収されるので、大気にとどまらないのです」とアリー氏は説明する。

 南極の氷も温暖化によって解け出しつつある。たとえば、日本の半分ほどの大きさがあるスウェイツ氷河は急速に後退している。また、氷河が海に押し出された棚氷は、上からも下からも薄くなっている。科学者たちはこうした傾向を心配している。(参考記事:「南極の棚氷が危ない、「両面」攻撃の脅威、研究」

「気温や水温の上昇は棚氷を弱くし、ある限界を超えると棚氷は崩壊しやすくなります」とアリー氏は話す。

 西南極の棚氷が崩壊し、スウェイツ氷河などが融解すれば、海水面は2100年までにさらに30cm以上も上昇するおそれがある。そして、氷河の融解が臨界点を超えて不可逆的になってしまえば、22世紀には海水面が3m以上も上昇する可能性がある。

「西南極での比較的小さな展開の差が、海水面の上昇では非常に大きな差につながるおそれがあります」とアリー氏は言う。(参考記事:「南極で巨大氷山の誕生を目撃、山手線内側のほぼ倍」

 南極の海氷は拡大と縮小を繰り返している。しかし、過去2年間の秋の海氷は記録的に少なかった。さらに、南極海の温暖化により、これまで隔離されていた南極大陸に、外来種や病気の侵入ルートができてしまうおそれも出てきた。すでに南極のペンギンの一部は生息域を変えざるをえなくなっているが、将来的にはさまざまな種が移動を強いられるかもしれない。最近発表された別の論文では、コウテイペンギンが今世紀末にはほとんど見られなくなる可能性もあるとしている。

参考ギャラリー:悪天候による高潮が襲ったベネチア 写真11点(画像クリックでギャラリーへ)
参考ギャラリー:悪天候による高潮が襲ったベネチア 写真11点(画像クリックでギャラリーへ)
2018年10月29日、ベネチアの名所サン・マルコ広場が閉鎖された。観光客のため、高床式の歩道が設置され、救助活動も行われた。ベネチアの水害を写真でお伝えする。(PHOTOGRAPH BY ANDREA MEROLA, ANSA VIA AP)

北極の声に耳を傾けよ

 今回の論文は「現在起きている変化と温室効果ガスの排出シナリオとの関係をしっかり評価できています」と米アラスカ大学フェアバンクス校の大気科学者ジョン・ウォルシュ氏は認める。なお氏は今回の論文には関わっていない。「2℃の温暖化は排出量を極力少なくできた場合のシナリオですが、この論文は、その場合ですら北極がこれまでとは違った場所になってしまうことを指摘しています」

 化石燃料の使用による排出量を減らすことで、北極の温度上昇の幅を小さくしたり、数十年遅らせたりすることができるかもしれないと著者らは主張する。

「ある意味、北極は私たちに語りかけているのです」とポスト氏は言う。「あとは、私たちがその声に耳を傾けるかどうかです」(参考記事:「化石燃料生産量、2030年にパリ協定目標値の220%」

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文=Cheryl Katz/訳=三枝小夜子

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