長さ52kmのこの光ファイバーケーブルは、通常は海底に電力を供給したりデータ送信に用いている。リンジー氏らは、MARSがケーブルを使用しない4日間を利用してこれにレーザー光を送り込み、地震データを収集した。レーザー光は約20kmの距離まで到達、1万個の地震計を海底に設置したのに相当する観測を行うことができた。
実験中、カリフォルニア州ギルロイ付近でマグニチュード3.4の地震が発生した。この地震による地震波は海底を伝わり、断層帯を通過する際にエネルギーの一部を散逸させ、それまで見えなかった沖合の断層群の姿を浮かび上がらせた。(参考記事:「米西部で地震~断層の動き方を知る」)
海底の地震観測を一変させるか
分散型音響センシングの手法が沖合でもうまくいくことを確認できた研究チームは、ほかの海洋環境でも試したいと考えている。特に注目しているのは、地震の脅威に直面している沿岸地域だ。
現在、海底の地震観測は限られた範囲でしか行われていない。しかし今回の手法を用いれば、これまでほとんど調べられていない沖合の環境についても、詳細な地震観測が可能になる。(参考記事:「プレートに「ファスナー」!?謎の火山活動に新説」)
太平洋岸北西部地震ネットワーク(Pacific Northwest Seismic Network)のネットワーク・マネジャーであるポール・ボディン氏は、オレゴン州とワシントン州の沖合の海底にある光ファイバーケーブルは、「津波や地震の観測データや早期警戒情報、まだ調査が行われていない領域の基礎科学研究データの提供に役立つ可能性があります」と言う。さらに今回の研究は、「将来的に常時行えるようになるであろう観測を、4日間のぞき見ることができた」点でも画期的だと評価する。
カリフォルニアの大陸棚沿いは地震活動が非常に活発であるため、この地域で新たな断層が見つかるのは特に意外ではないが、さらなる研究が進めば、この断層の構造を評価したり、危険性を見きわめたりもできるだろう。(参考記事:「揺れない“幻の地震”が発生か、50日継続、トルコ」)
リンジー氏のチームは、MARSのケーブルをあと1年ほど利用して、地震環境に関するデータを追加で収集したいと考えている。今回の実験で調査できたのはMARSのケーブルが通っている範囲のうち一部の海底だけだが、さらなる技術改良により全長分の海底を調べられるようになるかもしれず、そうなればもっと意外な発見もあるはずだとドー氏は期待する。
「全長分の海底が監視できれば、全域の断層地図を描くことができます。そうなれば地震観測は大きく進化するでしょう」
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