「背筋が寒くなるような産業です」
南アフリカで飼育されているライオンの数は6000~8000頭と推定されているが、今では1万頭にまで増えているかもしれない。そう語るのは、2015年のドキュメンタリー映画『ブラッド・ライオン』に出演し、ライオン飼育産業の舞台裏に迫った保護活動家のイアン・ミックラー氏だ。
観光牧場では、訪れた客が料金を払ってライオンの子どもに触れたり、哺乳瓶でミルクを与えたり、一緒に写真を撮ったりできる。加えて、おとなのライオンのそばを歩けるサービスもある。子ライオンを使うこうしたペットビジネスは、虐待や商業目的の繁殖、処分につながる恐れがあると批判されている。ライオンが成長すれば触るのは危険になるので、ピエニカのような繁殖や狩猟ができる牧場によく売り飛ばされるからだ。(参考記事:「「SNS映え」が動物たちを追い詰める」)
「あちこちから少しずつ収入が流れ込んできて、ボロ儲けできるんです。背筋が寒くなるような産業です」と、ミックラー氏は言う。
フェンスで囲まれた場所にライオンを入れて狩る「缶詰」ハンティングを売りものにしている牧場もある。スポーツ狩猟家が、時には5万ドルを支払ってライオンを射殺し、皮や頭を“トロフィー(戦利品)”として持ち帰る。骨などの残された部分はアジアへ輸出され、伝統薬に使われる。なお、南アフリカは1年間に輸出できるライオンの骨の量に制限を設けている。
保護活動家や動物福祉擁護家にとって、ピエニカ・ファームは南アフリカのライオン牧場が抱える深い闇のすべてを象徴する存在だ。
ライオンの飼育産業はほぼ野放し状態であるという指摘は、以前からあった。同国の農業開発・土地改革省は、飼育ライオンの数を定期的に確認することもなく、ライオンの骨への需要が高まるなか、動物福祉の監視は人員と資金不足に苦しむNSPCAに一任されてしまっている。元々は小さかった産業は、今では手に負えないほどに膨れ上がってしまった。
「怪物を誕生させてしまって、それにエサをやらなければいけない状態になっています」と、NSPCAの野生生物取引及び密輸監視部門をまとめるカレン・トレンドラー氏は例える。
スタインマン氏の弁護人を務めるアンドレアス・ピーンズ氏によると、スタインマン氏は北西州で2カ所の牧場を経営し、ライオン、トラ、その他の野生生物を飼育している。また、ピエニカ・ファームの敷地内でライオン狩りを許可することによって、種の保護を助けていると主張する。「繁殖させたライオンを狩猟のターゲットにすることで、密猟を防いでいるのです」(参考記事:「動物を救うために殺してもいいのか?」)
さらにピーンズ氏は、ピエニカ・ファームで飼育されている100頭以上のライオンの状況をNSPCAが大げさに報告したせいで誤解を招き、NSPCAとスタインマン氏の対立を生んでしまったと主張する。NSPCAが公開した体毛の抜け落ちたライオンの写真も、スタインマン氏のライオンではないという。そのうち1枚の写真はナショナル ジオグラフィックでも公開され、今では広く出回っている。(参考記事:「ライオン100頭以上ネグレクト 南アフリカ施設」)
対して、NSPCAのウォルター氏はピーンズ氏の主張を否定し、あの写真だけではとても現状を伝えきれていないと話す。「実際はあれよりもはるかにひどい状態でした」
スタインマン氏は、ピーンズ氏を通してナショナル ジオグラフィックの「ワイルドライフ・ウォッチ・チーム」を20平方キロメートルのピエニカ・ファームに招待した。ライオンたちが実際にどんな様子なのかを見てほしいという。(参考記事:「トラ寺院から救出のトラ86頭、政府の保護下で死亡」)
2019年7月20日に、写真家のニコール・ソベッキ氏と私が到着すると、留守にしていたスタインマン氏の代わりに、ピーンズ氏と管理人のマリウス・グリーゼル氏が案内してくれた。
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