山火事の季節を迎えたばかりのオーストラリアで、前例のない壊滅的な火災が起きている。シドニーからバイロン・ベイにかけての東海岸では、数十カ所で森林火災が起きており、家や森、そして湿地帯までが燃えている。そんな中、火事の犠牲者のシンボルとして、火傷をして死にかけているコアラの姿が報道されている。(参考記事:「未曽有のアマゾン森林火災、動物への影響は」)
「彼らは、かわいらしく無力な生きものです」と、オーストラリア、クイーンズランド大学の研究員であるクリスティーン・アダムス=ホスキング氏は言う。「鳥は飛べて、カンガルーはすばやく飛び跳ねることができますが、足の遅いコアラはその場で立ち往生するしかありません」(参考記事:「動物大図鑑 コアラ」)
無防備なコアラたちの苦境が伝えられると、心配の声が多く上がった。と同時に、混乱が起きた。コアラが生息地の8割を失い、「機能的絶滅」に陥ったという誤った情報が、マスコミやソーシャルメディアで広まったためだ。これは、危機のさなかにどれほど早くデマが広がるかを示す好例でもある。
コアラは現在、国際自然保護連合(IUCN)の危機リストでは、絶滅危惧種(endangered)の一歩手前である危急種(vulnerable)に分類されている。報告によると、火事で大きな被害を受けたニューサウスウェールズ州北部では、これまでに350頭から1000頭のコアラが死んだという。(参考記事:「あの動物も、危機に瀕しています」)
しかし、専門家は絶滅に向かっているわけではないという。タスマニア大学の教授で、野生生物保護を専門とするクリス・ジョンソン氏は、「コアラがそんなに速く絶滅することはありません」と話す。「複雑にからみ合ったたくさんの理由により、コアラの数は減り続けるでしょう。しかし、1つの出来事で種が絶滅してしまうような状況にはなっていません」
専門家に聞いた正確な状況を説明しよう。
おすすめ関連書籍
絶滅から動物を守る撮影プロジェクト
世界の動物園・保護施設で飼育されている生物をすべて一人で撮影しようという壮大な挑戦!
定価:本体3,600円+税