絶滅寸前の有袋類、化石の地への移住で保護へ、豪

分断されたブーラミスの生息地、山地から化石時代に仲間が繁栄した低地に

2019.11.08
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 繁殖センターになる予定の施設ではすでに数匹のブーラミスが飼育されている。それらに加え、保護施設にいる一部のブーラミスは、いずれも冬眠することなく、いろいろな種類の食物を食べて繁殖していて、新しい環境に適応できそうだ、とアーチャー氏は言う。もちろん、ブーラミスを放す前には周到な準備が必要だ。

「高山のブーラミスをいきなり捕まえてそのまま低地の雨林に放したら、混乱させてしまいます」と氏は話す。「ですから私たちは、彼らを放す予定の場所にある昆虫や種子に慣らすつもりです。たぶん、すぐに試してみて、食べられるかどうか確認すると思いますよ」(参考記事:「絶滅危惧のキツネザル、観光島へ移住させて保護へ」

ブーラミスが最初ではない

 しかし、この提案には異論もある。

 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の行動生物学者ダニエル・ブラムスタイン氏は、この提案に不安を感じている。氏は、オーストラリアの希少な哺乳類を、かつての生息地に戻すための方法を研究してきた。なお、氏は今回のプロジェクトには関与していない。

「希少な種の生息域を広げることは、状況によっては良いことかもしれません。けれども、長らく生息していなかった場所に移住させることにはリスクがあります」とブラムスタイン氏は言う。「その動物がすむのに適した気候であっても、ほかの種にどんな悪影響を及ぼすかわからないからです」

 化石記録によれば、ブーラミスの祖先は、生物多様性に富んだ生息地で、数十種の哺乳類とともに生きていたようだ。そのためアーチャー氏は、現在のブーラミスがほかの種に害を及ぼすおそれはないと考えている。

「もちろん、ブーラミスを放してそのままにするつもりはありません。実験的な措置の一環として、全体のなりゆきを慎重に監視します。かつてオーストラリアに入植したヨーロッパ人が、ネコやキツネやウサギを放す前に、私たちの半分でも慎重だったらよかったのにと思います」と氏は言う。(参考記事:「24匹が8億匹に! ウサギで豪大陸を侵略した英国人」

 化石記録から得られる知見により恩恵を受けた動物は、ブーラミスが最初ではなく、おそらく最後でもない。ニュージーランドでは、高山に生息するタカヘという鳥が、その祖先は低地にすんでいたとする古生物学者の指摘を受けて、低地に放されている。(参考記事:「巨大オウムの新種化石を発見、肉食の可能性も、NZ」

 オーストラリアでは、アーチャー氏が別のアイデアを検討している。乾燥により生息地の湿地が干上がりつつあるため、西部に生息するクビカシゲガメを、祖先の化石が見つかっている東部の低地雨林に移そうというのだ。コモドオオトカゲを、かつて祖先がすんでいたオーストラリア本土に移住させようという声もあるが、小さなブーラミスを数匹移すのとは違い、大きな論争になりそうだ。(参考記事:「コモドドラゴンの生息地が広がらない意外な理由」

ギャラリー:絶滅の危機から復活しつつある動物 11選(写真クリックでギャラリーページへ)
クロアシイタチは、イタチの仲間としては数少ない北米原産種のひとつ。長くほっそりとした体をもち、夜にプレーリードッグを狩って食料にしている。1日の9割を、プレーリードッグから奪った地下の巣穴で過ごす。(参考記事:「【動画】絶滅が危惧されるクロアシイタチを野生に」)(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)

文=Tim Vernimmen/訳=三枝小夜子

おすすめ関連書籍

2019年10月号

消えゆく生命のポートレート/大海原で生き続ける/キリンの引っ越し/ガラス瓶の中の魚たち/恐竜化石は誰のもの?

かつて地球にぶつかった小惑星が大量絶滅をもたらしたように、今、人類が生き物たちの大量絶滅を引き起こしつつある。私たちは何を知るべきなのか、今月は一冊まるごと「絶滅」を考える。特製付録付き!塗り絵ブック「地球に生きる仲間たち」

価格:本体1,083円+税

おすすめ関連書籍

PHOTO ARK 動物の箱舟

絶滅から動物を守る撮影プロジェクト

世界の動物園・保護施設で飼育されている生物をすべて一人で撮影しようという壮大な挑戦!

定価:本体3,600円+税

  • このエントリーをはてなブックマークに追加