パリ協定の目標を達成できる国はわずか、報告書

失敗の代償は全人類に、「未曽有の人的被害」との論文も

2019.11.08
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「未曽有の人的被害」を回避するには

 先の報告書とは別に、こうした現状に危機感を抱いた153カ国1万1000人を超える科学者たちが、11月5日付けの学術誌「Bioscience」の論文において、「世界の科学者による気候危機への警告」宣言に署名した。宣言は次のようなに始まっている。「全ての壊滅的な脅威を人類にはっきりと警告し、事実をありのままに伝える倫理的義務が、科学者にはある」

 論文には、最悪の影響を緩和するための6つの措置と、気候変動にまつわる29の「重大な兆候」が含まれている。29の兆候とは、エネルギー消費量、森林破壊、航空運輸など、過去40年間に気候変動に影響を与えた人間の活動と、二酸化炭素の増加や海氷の融解といった、その結果のデータだ。

「未曽有の人的被害」を回避するには、排出量を大幅に削減する必要があると、宣言書は警告している。それには、肉の消費量と食品の無駄な廃棄を減らし、再生可能エネルギーを使ってエネルギー効率を増大させなければならない。(参考記事:「肉を半分に減らさないと地球に「破滅的被害」」

 論文の筆頭著者である米オレゴン州立大学のウィリアム・リップル氏は、気候問題の解決法を示した論文は真新しいものではないとしながらも、解決法を6つの措置に分け、さらに40年前の状況と現在がどう変わったかを示した簡単なグラフで、誰もが理解しやすいようになっていると説明する。

「世界中の人々が積極的に政治に関わり、政策立案者たちは気候変動対策の計画を大幅に改善させる努力が必要です」

 実際、気候問題に関わろうとする人々は増えている。今年9月の世界気候ストライキには数百万人が参加し、多くの国や自治体、企業が、こうした声に耳を傾け始めている。

 リップル氏は、2020年の米国大統領選挙では、気候変動が大きな争点になると予測している。「既に、争点になっています」

「未来の世代に対する卑劣な行為」

「パリ協定の破棄は、未来の世代に対する卑劣な行為です」と、世界資源研究所所長のアンドリュー・ステア氏は、トランプ政権の協定離脱を非難した。そして、米国は低炭素の未来がもたらす雇用や、経済発展の機会を取り逃がすだろうと警告する。

「深刻な危機が迫っているときに、トランプ政権は壊滅的なメッセージを世界へ送ってしまいました」と、大規模な草の根組織である350.orgの代表を務めるメイ・ボーブ氏も述べる。「大多数の米国民は、この危機に正面から取り組む必要性を理解しています」

 2019年8月の世論調査では、米国有権者の71%が、連邦政府は気候変動対策にもっと積極的に取り組むべきだと答えた。そしてほぼ同数が、それによって経済や雇用に良い影響が出ると考えている。

 1年後の2020年11月4日、米国は正式にパリ協定から離脱する。大統領選挙の翌日だ。ただし、国連への申請から30日以内なら、協定への復帰は認められる。

ギャラリー:ついに村ごと移転開始、永久凍土融解で、アラスカ 写真13点(写真クリックでギャラリーページへ)
永久凍土の融解がニュートックの土地の浸食を加速させている。(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

文=Stephen Leahy/訳=ルーバー荒井ハンナ

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