パリ協定の目標を達成できる国はわずか、報告書

失敗の代償は全人類に、「未曽有の人的被害」との論文も

2019.11.08
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 ところが、2030年に向けた184カ国の削減目標を分析してみると、ほぼ4分の3が不十分であることが判明した。世界最大の排出国である中国と、排出量4位のインドでは、2030年までに排出量が増える見通しだ。第2位は米国だが、その目標は低すぎる。11月4日にパリ協定からの離脱を国連に通告したトランプ政権の下では、それすら達成できるのかが危ぶまれている。(参考記事:「トランプ次期大統領が引き起こす気候変動の危機」

 第5位のロシアにいたっては、目標の設定すらしていない。第3位の欧州連合(EU)だけが、2030年までに少なくとも40%を削減するという目標を掲げ、その値は60%に近づくともいわれている。

ギャラリー:凍土に眠る炭素の脅威(写真クリックでギャラリーページへ)
米国アラスカ州フェアバンクス近郊の池。北極圏では池や湖の底の凍土が解けてメタンが湧き出ている。冬、池に張った氷に穴を開けて火を近づけると、閉じ込められていたメタンに引火した。(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY)

「問題の解決には、全員の協力が必須です」

 この報告書の優れた点は、どの国が先行していて、どの国が後れを取っているかがわかりやすいことだと、ワトソン氏は言う。「気候変動による大きな影響は既に出始めています。対策が後になればなるほど、気温の上昇と影響の悪化は避けられなくなるでしょう」

 報告書を公開したユニバーサル・エコロジカル・ファンドは、気候変動対策を促進するために、誰もがアクセスしやすい気候科学の情報提供を目指す非営利団体だ。

 この団体は政府や企業に大がかりな行動を促すべく、「真っ当でしっかりしたもうひとつの科学的な根拠」を提供すると、ドイツのベルリンを拠点とする研究機関クライメート・アナリティクスの気候科学者、ビル・ヘア氏は言う。氏は気候変動についての政策や削減目標の専門家だが、今回の報告書には関わっていない。

 富裕国による長期的な資金援助や技術支援がなければ、貧しい国々が排出を大幅に削減するのは無理だとヘア氏は指摘する。ワトソン氏もこれに同意して、問題の主な原因を作った先進国が途上国を支援すべきだと訴えた。「問題の解決には、全員の協力が必須です」

 ドイツ、気候政策と世界の持続可能性のためのニュークライメート研究所のニクラス・ヘー氏も、全ての国が行動を起こし、世界的な排出量を2050年までに正味ゼロにする必要性を認め、そのために大々的な対策を講じなければならないと主張する。(参考記事:「地球温暖化の影響は想定より深刻、IPCCが警告」

 具体的には、エネルギー効率を大幅に改善させ、今後10年間で2400カ所の石炭発電所を閉鎖し、再生可能エネルギーに切り替えることだ。これは、可能であるばかりか、費用対効果も高い。ところが、現在世界中で250の石炭発電所が建設中であると、報告書は指摘している。(参考記事:「発電所、CO2目標を達成するにはすでに多すぎ、研究」

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