科学者の見積もりによると最大で毎年1270万トンものプラスチックごみが海に捨てられていて、海洋プラスチックごみは今や世界的な問題になっている。けれども北極の海では、マイクロプラスチックが多く集まっていることに加えて、過酷な環境や限られた食物網、近年の気候変動のため、動物たちが特に影響を受けやすい。
「私たち人類は、この環境に生きる動物たちに、ますます多くのストレスをかけています」とハランガー氏は言う。彼女は北極地方の鳥やキツネがマイクロプラスチックにさらされる量や経路、影響を調べている。「これがとどめの一撃になる可能性もあります」
ノルウェー極地研究所の研究砕氷船クロンプリンス・ハーコン号に戻ったハランガー氏と私は、簡単な実験をすることにした。まだ誰も歩いたことのない氷の上から解けた水を採取して、フィルターに引っかかったものを顕微鏡で観察するのだ。
フィルターのあちこちに、マイクロプラスチックの定義に合う大きさの、赤や青や黒の物質が引っかかっていた。そのほとんどが化学繊維で、プラスチックの破片も少し混じっていた。
北極のこうしたプラスチックは、どこから来て、どのようにして入り込んだのだろうか?
移動するプラスチック
オランダ、ユトレヒト大学の海洋学者エリック・ファン・セビル氏は、海洋のプラスチックごみの移動経路の地図を作っている。北方の海には非常に多くのごみがあり、彼はノルウェーとロシアの北のバレンツ海で、新たなごみベルトが形成されつつあるのを発見した。ごみの多くはヨーロッパ北西部と北米東海岸から来ているようだ。
ファン・セビル氏は、プラスチックは北極海の南端付近で蓄積すると考えている。大西洋を北に向かう海水がここで冷えて沈むことで、大西洋南北熱塩循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation:AMOC)という強力な海流システムが発生するが、プラスチックは水に浮くので、その場所に残るというわけだ。
さらにファン・セビル氏は、海洋プラスチックは「ストークスドリフト」という波によっても極地へ運ばれることを発見した。海洋プラスチックの見積もりに用いられるモデルのほとんどがストークスドリフトの影響を考慮していないため、実際には北極に蓄積するプラスチックの量はかなり多くなる可能性があると彼は言う。(参考記事:「深海底に大量のマイクロプラスチックが集積、研究」)
海氷も、大量のマイクロプラスチックを北極地方に運んでいき、そこに蓄積させている。しかし、現在のように速いペースで氷が解けていると、貯蔵は一時的なものになるだろうと、ドイツ、アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所の海洋生物学者イルカ・ピーケン氏は言う。