「2歳か3歳のころからゾウと暮らしていました」
タイ東部の小さな村タークランにある自宅の庭で、ジュタマート・ジョンジアンガムさんは娘に授乳しながら、そう話してくれた。私たちの左側の数メートル先には、4頭のゾウが鎖につながれていた。
ジョンジアンガムさんはゾウ使いだ。ゾウの世話をし、訓練する。彼女の父親と兄弟も同じくゾウ使いで、娘もゾウと一緒に育てたいという。
タークラン村の赤い大地には、同じような家がいくつも建っている。それぞれの家の前には、竹製の敷物が敷かれ、その上で人々は座ったり寝たり、テレビを見たりする。
夕暮れ時に通りを歩いていると、時折青く光るテレビの画面が目につくが、どこを見てもゾウがいる。ある家には1頭。別の家には5頭。ブルーシートやトタン屋根、木の下に立っている。中には、母親と子どものゾウの姿もあった。ほぼすべてのゾウが、前脚に鎖や枷を付けていた。その足元を縫うようにして、犬や鶏が走り回って赤い砂埃を上げる。(参考記事:「ゾウと人の付き合い100年の変遷、写真16点」)
タイには約3800頭の飼育ゾウがいて、国の観光業を支えている。その多くが「エレファントキャンプ」と呼ばれる観光施設で働き、芸を披露したり、観光客と触れ合ったりする。タークラン村は「ゾウの村」として知られ、常に300頭前後のゾウが飼われている。スリン県にある村の周辺地域は、タイの飼育ゾウのうち半分以上を供給しているという。
ゾウの背に乗ったり芸を見るために観光客がタイに押し寄せるようになるずっと以前から、この地域はゾウ取引の中心地だった。かつては、野生で捕獲したゾウを飼い慣らし、木材の運搬に使っていた。しかし、1989年に木材の伐採が禁止されると、突然仕事を失ったゾウ使いたちは、ゾウを連れて町へ出かけ、交通渋滞を引き起こしながら道を歩いて物乞いをした。