ザトウクジラは洗練された狩りをすることでよく知られる。獲物を見つけると、大きな魚網をつくるように口から泡を吐き、時計回りに泳ぐ。こうして、ザトウクジラは素早く獲物を取り囲むのだ。(参考記事:「【動画】ザトウクジラが桟橋前で大口開け食事」)
狩りの創意工夫だけでなく、社会行動や仲間とのコミュニケーションも発達しているザトウクジラ。これらの能力を考えると、ザトウクジラについて見逃している能力があると考えている研究者は多い。
そして、研究者の予感は的中した。狩りについて、より詳しいことがわかったのだ。
バブルネットだけではなかった
きっかけはこうだ。毎年4月、米国アラスカ州南東部にあるサケの養殖場から海に稚魚が放流される。乱獲によって減少した個体数を回復させる取り組みの一環だが、やがて数頭のザトウクジラが稚魚を目当てに現れるようになった。科学者たちはザトウクジラの食性をとらえる好機と考え、ドローンや養殖場の浮桟橋を利用して、写真や動画でザトウクジラの狩りの様子を撮影することにした。(参考記事:「トラベル写真賞、日本人写真家がグランプリ 写真23点」)
この調査で、既知ではあったが裏付けが取れていない、クジラの行動を記録することに成功。研究の結果は、2019年10月15日付けでオープンアクセスジャーナル「Royal Society Open Science」に発表された。
この論文によれば、2頭のザトウクジラが泡の網(バブルネット)を吐いた後、前肢(いわゆるクジラの胸びれ)を使って泡の内側に2つ目のバリアをつくり、さらに、前肢を上下に動かし、大きく開いた口へと魚を運んで捕食したという。
この「胸びれ追い込み漁」の目撃事例はあったものの、どんな手順で何が起きているかを示すものはなかったと、今回の研究を率いたマディソン・コズマ氏は話す。コズマ氏は米アラスカ大学フェアバンクス校の修士課程で水産学を研究している。
「ドローンなどの最新技術、調査地となったサケの養殖場のユニークさのおかげで、私たちは実際に捕食する様を記録することに成功しました」。コズマ氏らは3年間の調査で数十回の胸びれ追い込み漁の一部始終を確認できた。