サハラギンアリ(Cataglyphis bombycina)は、きらめく極小のミサイルのようだ。焼けつく砂漠で輝きを放ちながら、暑さに倒れた動物を探して駆け回る。その足の速さは、昆虫全体で見てもトップクラスだということを明らかにした論文が、10月16日付けで学術誌「Journal of Experimental Biology」に発表された。
チュニジア、ドゥーズの灼熱の砂漠で行われた最近の実験で、サハラギンアリは、秒速およそ85センチという記録をたたき出した。1秒間で体長の約108倍もの距離を移動したことになる。人間の大きさに当てはめると、なんと時速640キロ以上に相当する。(参考記事:「【動画】頭の表皮がバネ!超高速で閉じるアリの顎」)
この値を超えるのは、米カリフォルニア州に生息するダニの仲間Paratarsotomus macropalpis(1秒間に体長の377倍)やオーストラリアハンミョウの一種Cicindela hudsoni(同171倍)など、わずか数種の無脊椎動物だけだ。(参考記事:「偽フェロモンに集団演技 ツチハンミョウの寄生技」)
酷暑のなかで生き抜くために
サハラギンアリの超高速移動は、おそらく過酷な砂漠での生活に適応した結果だ。そのおかげで、気温60℃にもなる暑さにやられる前に、すばやく仕事をこなせる。細長い体形は放熱に有利だ。また、金属光沢を放つ特殊な体毛が体全体に生えており、光を反射し、過熱を防ぐ。
「進化の観点から見ると、北アフリカの砂漠は食物が少なく、高温な気候であるため、サハラギンアリは自然選択により、餌となる死体をすばやく効率的に探し回るのに不可欠な能力を獲得したと考えられる」とドイツ、ウルム大学の生物学者ザラ・ペッファー氏らは論文に書いている。
全般的にこの研究は、厳しい環境で動物が遂げる驚くべき進化を解明する新たな切り口を示すものだ、と論文には述べられている。
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