南極大陸の氷床には、世界の海水面を約60m上昇させるだけの水が閉じ込められている。幸い、氷河が海に張り出してできる「棚氷」が、南極大陸を城壁のように囲み、内側にある陸の氷を守っている。ところが最近、この壁を上と下から破壊する現象が相次いで見つかった。
9月25日付けで学術誌『Scientific Reports』に発表された論文によると、寒冷なはずの東南極で、夏になると棚氷の表面が解け、何万個もの湖ができるという。これは、従来把握されていた数よりはるかに多い。
さらに、10月9日付けで学術誌『Science Advances』に発表された論文によると、西南極では、海水が棚氷の底を「川」のように流れ、氷を解かしているという。
地球温暖化が進行すれば、この2つのプロセスが、南極大陸の棚氷とその内側にある巨大な氷河の死を早めるおそれがある。(参考記事:「南極の棚氷に大きな亀裂、巨大氷山が分離へ」)
プロセス1:青い湖による侵略
南極を覆う氷は、寒さがゆるむ夏になるとその表面が解け、くぼみに水が流れ込んで青い湖をつくる。融水湖だ。(参考記事:「南極を流れる不気味な「血の滝」、謎を解明」)
この美しい湖は、氷にとっては厄介者だ。湖は暗い色をしているため日光を吸収しやすく、氷や水をさらに温めてしまうからだ。条件によっては、湖底のクレバスに水が流れ込み、その水圧で棚氷を割ってしまうおそれがある。「水圧破砕」として知られる現象だ。