迫るタイムリミット
WTO協議の期限は2019年末と定められているが、今回の報告は、この協議の重要性を物語っている。
9月に公開されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では、温室効果ガスの排出が今のまま続けば、今世紀末までに漁獲可能な魚の量は24.1%減少すると予測している。専門家らは、漁業への補助金は気候変動による海の生態系破壊に拍車をかけるものであり、これを禁じる国際合意は喫緊の課題だと主張している。(参考記事:「解説:気候変動、IPCC最新報告書の要点は?」)
「WTOでは20年間、漁業補助金について協議してきましたが、技術的な面の話し合いは、ほぼし尽くしました。あとは、合意をゴールまでもっていく政治的意思が欠けているだけです」と話すのは、この協議を長年見守ってきたマドリードのコンサルタント会社ヴァルダ・グループのレミ・パルメンティア氏だ。
今回の論文の著者であるラシド・スマイラ氏は、「補助金が増えている要因は政治的なものです。燃料費の補助などをいったん与えてしまうと、それを打ち切るのはとても難しくなります。しかし、科学者が訴え続けることが重要です」と話す。
WTOの広報は、今回の調査結果や協議の状況についてはコメントできないとしているが、WTO局長のロベルト・アゼヴェード氏による以下の声明を発表した。
「多くの水産資源が枯渇し、政府による際限のない補助金が海の魚たちに害を与えているのは間違いありません。2019年末の期限に向け、話し合いは本格化しています。WTO加盟国は意見の違いを脇において、合意に至る妥協点を見つけなければなりません。今こそ、行動すべき時です」