ドイツの先史時代の遺跡から出土した哺乳瓶は、古代の人々が乳児をどのように世話していたかを教えてくれる。(ILLUSTRATION BY CHRISTIAN BISIG, ARCHÄOLOGIE DER SCHWEIZ)
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 世界で最初に哺乳瓶を使い始めたのは、約7000年前のヨーロッパに住む人々だったとされている。新石器時代が始まり、狩猟採集社会から定住生活をする農耕社会へと移り変わる時期のことだ。(参考記事:「新石器時代に人工島、定説覆す発見、目的は不明」

 これまでに発見されたそうした小さな土器は、細い飲み口と、ときに動物に似た楽しい形をもち、乳幼児の手に収まっている様子を容易に想像できる。では、子どもたちはそのような容器から一体何を飲んでいたのだろうか?

 このほど、先史時代の哺乳瓶に付着した物質をはじめて特定した研究結果が、9月25日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された。論文によると、少なくとも3000年前のドイツ南部のいくつかの共同体では、おそらく離乳を進めるにあたり、乳児に動物の乳を与えていたようだ。(参考記事:「新石器時代のワイン、世界最古の残留物を発見」

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土器の哺乳瓶はヨーロッパで約7000年前から見られるようになり、なかには動物のような形のものもあった。写真の哺乳瓶は紀元前1200年から紀元前800年までのもの。(PHOTOGRAPH BY KATHARINA REBAY-SALISBURY)

先史時代の離乳食

 離乳は、個人にとって重要な節目であるだけではない。集団レベルでも、社会の発達に大きな影響を及ぼしてきた。

 狩猟採集民は、子どもが5歳程度になるまで母乳を与え続けることがあった。一方、新石器時代のヨーロッパに暮らした初期の農耕民は、おおむね子どもが2〜3歳頃になるまでに離乳を終えていたことが、安定同位体分析を利用した研究によって示されている。授乳中の母親は妊娠しにくいため、早期に離乳することで、母親がより多くの子を産めるようになった。その結果、出生率が上昇し、人口の大幅な増加につながった。(参考記事:「オランウータンは8歳でも授乳、霊長類最長と判明」

 だが、その時代の子どもが離乳食として何を飲み、何を食べていたかを示す直接的な証拠は、これまで見つかっていなかった。

 論文の著者である英ブリストル大学の生体分子考古学者ジュリー・ダン氏は、農耕牧畜社会になって家畜を飼育していた人々が、乳児に動物の乳を与えるようになったとしても不思議ではないと考えていた。(参考記事:「馬の家畜化と搾乳は5500年前から」

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