世界最大の魚類コレクション、クセが強い理由

「採集マシン」と呼ばれた男が集めまくった標本群の、実は大きな価値

2019.09.30
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
特集フォトギャラリー3点(画像クリックでリンクします)
タイセイヨウチョウザメ(Acipenser oxyrinchus)の標本を持つコレクション・マネジャーのジャスティン・マン。サッカス・コレ クションは、環境の変化が魚にどんな影響を与えたかを教えてくれる貴重な存在だ。PHOTOGRAPH BY CRAIG CUTLER

 米国テュレーン大学には世界最大の魚類コレクションがある。

 ただし「世界最大」は、注釈付きだ。「ある程度育った仔魚から成魚までを含む魚類標本コレクションとしては、世界最大です」と、コレクション・マネジャーのジャスティン・マンは話す。マンはさらに、最大なのは標本の数であって、種数ではないと付け加える。コレクションの大半は米国南東部で採集されたもので、ごく普通の魚種ばかり800万点近くが集められたものだ。

 魚類学者のロイヤル・D・サッカスが1950年に着任した当時、テュレーン大学には魚類標本と呼べるものが2点しかなかった。実物を見て研究しないことには、魚の世界を理解することはできず、人は理解できないものを保護しようとはしない。そうした信念に基づき、サッカスは標本を充実させていった。彼は野外調査の“鬼”だった。長さ3メートルの引き網の反対側を大学院生に持たせ、時には首まで水に漬かりながら網を引いた。その情熱には学生も舌を巻くほどだった。その調子で約半世紀にわたり、米国南東部の川や海の魚を調べ続けた。

 2009年に他界したサッカスの場合は、汚染物質を排出する工場などの周辺で環境調査を行うことも多かったため、毎年、同じ川の同じ場所からの採集を数十年にもわたって続けた。また、研究者は普通、調査対象の流域で捕まえた魚のなかから保存する価値のあるものを2、3匹選んだら、残りは川に返すが、サッカスのやり方はその正反対で、網にかかったものを一匹残らず標本にしていった。

反感も買った採集手法

 そんなサッカスの手法に反感を覚える研究者もいて、サッカスに「採集マシン」というあだ名をつけ、こんな歌まで作った。

さあ、老いた猟犬も金魚も
ペットのイグアナもオウムも隠しておくんだ
子どもたちから目を離さないで、
遠くに行かせちゃいけないよ
だって、片っ端から標本にしようと、
“採集マシン”が待ち構えているからね

 取捨選択した後に収蔵されるコレクションには、恣意的な“ゆがみ”が生じる。だが、このコレクションにはゆがみがなく、「過去をのぞく窓」になっている点で価値がある、と米国テネシー水族館で水生生物の保全を研究するバーニー・クハジダは話す。

 大抵の研究者は、「10匹採集したら、なるべく大きな個体を選んで、残りは放します」と彼は言う。だが「一切合切を標本に残したサッカスのおかげで、私たちは過去の特定の時期と場所における個体群の年齢構成を知ることができる」のだと、クハジダは付け加える。そこから、健全な個体群に必要な年齢層がそろっていたかどうかなどがわかる。「それが、このコレクションの強みです」

※ナショナル ジオグラフィック10月号「ガラス瓶の中の魚たち」では、今や不滅の価値を持つようになった世界最大の魚類コレクションについて紹介しています。

文=リチャード・コニフ/ジャーナリスト

  • このエントリーをはてなブックマークに追加