キリンが直面する「静かなる絶滅」

アフリカでは30年間で4割近く減少し、現在の生息数は約11万頭

2019.09.29
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チャドのザクーマ国立公園で首をこすり合うコルドファンキリン。争いの前兆か、何らかの意思疎通かもしれない。ここはコルドファンキリンにとって比較的安全な生息地で、世界全体の個体数の半分以上が暮らしている。PHOTOGRAPH BY BRENT STIRTON

 2016年、ある研究チームがキリンに関する新しい学説を発表した。それまでキリンは1種(Giraffa camelopardalis)しか存在しないとされてきた。ところが遺伝子解析によると、キリンは4つの種に分類できるというのだ(まだ異論はある)。さらにこの4種の下には、希少なナイジェリアキリン(Giraffa camelopardalis peralta)を含め、5つの亜種が存在するという。

 そして、このうち2亜種を除くすべての種や亜種が、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅の危機にあるとされている。アフリカではこの30年間でキリンが4割近く減少し、現在の生息数は約11万頭だ。

 動物保護団体「キリン保全財団」(GCF)の共同代表を務めるジュリアン・フェネシーは、この状況を「静かなる絶滅」と呼ぶ。ゾウや大型類人猿が姿を消すことには注目が集まるが、野生のキリンが危機的状況にあることはほとんど知られていない。

 人口増加や家畜の過放牧、気候変動によって、牧畜民や農民は手つかずの原野も利用せざるを得なくなり、キリンの生息地を脅かしている。亜種の一つであるヌビアキリンは、この30年で大幅に減少し、大型哺乳動物のなかでも特に絶滅の危険性が高いとされている。

キリンの保護に成功した国

 そうしたなか、ニジェールでは1996年に49頭にまで落ち込んでいたキリンの数が、その後20年余りで600頭にまで回復した。アフリカの野生動物保護では最大の成功例といえるが、これには訳がある。

 国連は各国の平均余命や教育、国民所得などの進歩の度合いを測る指標として、「人間開発指数」を発表している。その指数で、ニジェールは世界189カ国のなかで最下位の常連国だ。この国にとって野生動物の保護は長い間、優先すべき課題とはいえなかった。

 1996年のクーデターで大統領に就任したイブライム・バレ・マイナサラは、近隣のナイジェリアやブルキナファソの大統領に贈呈しようと、軍隊を派遣して野生動物を捕獲した。だが、捕まえられたキリンはすべて死んでしまい、ナイジェリアキリンは3分の1近くにまで減少する。

 事態が切迫するとともに、ナイジェリアキリンが国の貴重な野生動物資源であるという認識も広まっていく。そして2011年、ニジェール政府はキリンの保護を目的とした保護プログラムを策定した。アフリカ初の試みだった。密猟を徹底的に取り締まったおかげもあり、キリンは順調に数を増やしていく。しかし、年に11%以上ものペースで急増したせいで、農家や牧畜民との衝突が避けられなくなった。キリンの数を健全に増やすためには、別の場所に新たな生息地をつくる必要があった。

※ナショナル ジオグラフィック10月号「キリンの引っ越し」では、その危機的な状況とともに、生息地を移転させるなどの保護活動をレポートします。

文=ジョシュア・フォア/科学ジャーナリスト

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