米アイダホ州西部の遺跡が、南北アメリカ大陸で最古の部類に入るとの研究結果が、8月30日付けの科学誌「サイエンス」に掲載された。
遺跡は、「クーパーズ・フェリー」と呼ばれる。放射性炭素年代測定によると、ここで人々が道具を作ったり、動物を解体したりしていたのは1万5000年~1万6000年前。近年、アメリカ大陸への人類移住の時期やルートに関しては、従来の定説を覆す遺跡がいくつか見つかっているが、クーパーズ・フェリーもその重要な例として加わることになった。
これまでの筋書き
20~30年前までは、おおむね1万3000年前のクロービス石器が、アメリカ大陸で最初の人類による技術だと考えられていた。いわゆる「クロービス・ファースト」仮説だ。この石器を作った人々は、かつてシベリアとアラスカを結んでいた陸地、ベーリング陸橋を渡り、アジアから徒歩でやってきて初めて北米に入ったと、多くの研究者が考えていた。北米の内陸部を覆っていた広大な氷床がおよそ1万4000年前に後退し始め、氷の消えた回廊地帯(無氷回廊)が現れ、そのルート沿いに南下してきたというものだ。(参考記事:「米先住民の起源はアジア、DNA分析」)
これが一般的に言われる筋書きだった。アメリカ大陸各地で、クロービスよりも古い遺物が見つかり始めるまでは。
「先クロービス」時代のものとされている遺跡は数十カ所ある。しかし、年代が正確にわかっているのは今のところ数えるほどしかないと、米ワシントン大学名誉教授で考古学者のドナルド・グレイソン氏は言う。チリのモンテベルデ(約1万4500年前)、米テキサス州のフリードキンおよびゴールト遺跡(それぞれ1万5500年前と1万6000年前)、米オレゴン州のペイズリー洞窟遺跡(約1万4000年前)などがそうだ。ここに、クーパーズ・フェリーが加わることになりそうだ。(参考記事:「北米最初の人類に新たな証拠、マストドン狩猟も」)
「私の見るところ、クーパーズ・フェリーは極めて説得力のある先クロービス遺跡です」。今回の研究に関わっていないグレイソン氏は、こう評価している。
米サンディエゴ州立大学の考古学者で、今回の論文を査読したトッド・ブレジー氏も同様に、この遺跡は「『クロービス・ファースト』のモデルはもう成り立たない」ことを示す、さらなる証拠だと話す。