グリーンランド、北緯82度の研究基地とは

地球の気候変動は、隔絶された極北の地で調査されていた

2019.08.31
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ヘリムガスで満たされた観測用の気球。グリーンランドのノード基地から約2キロ南東にあるフライガー小屋で放たれるのを待つ。乱気流、太陽放射や地球放射、低層大気中に漂う微粒子「ブラックカーボ ン」などを測定できる。PHOTOGRAPH BY ESTHER HORVATH

 夏の夕暮れ時、兵士たちはシャツも着ずに屋外でくつろいでいる。ある者はギターを弾き、ある者は本を読む。何ともリラックスした雰囲気だが、ここはグリーンランド北東部にあるデンマーク軍のノード基地だ。遠くで発電機のうなる音が聞こえ、時折、2頭のグリーンランド犬がほえる。

 この基地の日常的な任務の大半が科学調査に関するものだ。北極圏では地球上のどこよりも速く、温暖化が進んでいる。気候変動の影響を調査する研究者にとって、この基地の立地は願ってもないほど良い。世界最大の国立公園に位置し、北緯はおよそ82度で、滑走路があるためアクセスしやすいからだ。

 ここはもともと、気象観測所として1952年に造られた施設で、基地というよりは、飛行場を備えた小さな村といったところだ。広大な敷地に宿舎や研究棟、発電小屋や厨房棟、集会場などが25棟以上あり、世界一流の研究を行えるインフラが整い、春から秋までは、さまざまな国から研究グループや支援作業員、パイロットや技師、軍関係者など多彩なゲストも訪れる。

北極だから得られる実感

 トーマス・クルンペンはドイツのアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所の上席研究員で、この基地での航空調査を率いる。クルンペンたちの観測データは気候モデルに入力され、気候変動がこのまま続いた場合、何が起こるかを予測する。北極に関する情報は、世界各地の気温や海面の上昇をはじめ、地球全体への影響を予測する上でなくてはならないのだ。

 ほかにも、気象観測用の気球を飛ばす研究者、穴を掘って雪のサンプルを採取する研究者、ホッキョクグマに襲われないよう番犬を見張りに立てて一晩中、計器を見つめる研究者がいる。そうやって地道に集めた情報が、「私たちの地球に、いったい何が起きるのか?」という、気候変動の時代における最大の疑問を解くのに役立つだろう。政治的にも科学的にも議論の多い、この問題に答えるためには、多くの地点で長期にわたって集められたデータが必要なのだ。

 北極圏では、専門的なスキルをもつ兵士がいなければ、こうした調査研究は何一つ進まない。だが、そんな兵士の一人であるイェスパー・ユール・ハンセンは、それがいとも簡単なことのように語る。「皆さんがそれぞれの役割を果たせるよう、自分たちの役割を果たしているだけです」

「本国の暮らしではわかりにくいですが、私たちは何をするにも、多くの人の力を借りています」とハンセンは話す。「また、普段は自分の仕事がほかの人の仕事に役立っているという実感も、あまりもてません」。しかし、北極では「それがはっきりとわかるんです」

※ナショナル ジオグラフィック9月号「温暖化に注ぐ熱視線」では、グリーンランドの基地に集まる研究たちの仕事にフォーカスしています。

文=ジェニファー・キングスリー/ジャーナリスト

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