ハリケーン撃退法、珍案は核爆弾だけではなかった

恐ろしい嵐を鎮めるために考えられた奇抜なアイデアたち

2019.08.30
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2018年9月12日午前、国際宇宙ステーションの外に設置されたカメラが、大西洋上空を進む巨大なハリケーン・フローレンスを撮影した。熱帯低気圧を鎮めるために、科学者たちは過去50年間試行錯誤を繰り返してきた。(PHOTOGRAPH COURTESY NASA)
[画像のクリックで拡大表示]

 核爆弾を打ち込んでハリケーンを破壊できないか。60年前に提唱された荒唐無稽なこのアイディアが、再び注目を集めている。トランプ大統領が、国家安全保障の顧問へ提案したと報じられたのだ。後に大統領は報道を否定したが、こんなことを言い出したのはトランプ氏が初めてではない。これまでも、ハリケーンを阻むために様々な珍案が提唱されてきた。

 今でこそ科学界では異端扱いされているハリケーン撃退法だが、1960年代から1970年代にかけては盛んに研究されていたと、米コロラド州立大学のハリケーン専門家フィル・クロッツバック氏は言う。米国政府は何年もかけて、ヨウ化銀粒子を大気に散布してハリケーンの勢力を弱めようと実験していた。結局、計画には致命的な欠陥があるとして中止された。

 他にも、ポンプで海水を冷やす、ゼリー状の物質で湿気を吸い取るなどといった、さらに奇抜なアイディアもある。これまでに検討されたいくつかの案を紹介しよう。(参考記事:「ハリケーン、サイクロン、台風の違い?」

ストームフューリー計画

 ハリケーン破壊実験として最も有名なのは、米政府が1962年から1983年まで実施した「ストームフューリー計画」だろう。

 1949年、大気科学者のバーナード・ボネガット氏は、雲の中にヨウ化銀という物質があると、氷の結晶ができやすくなるもしれないと発表した。雲の中の氷の結晶は雨のもとになる。したがって、ヨウ化銀の粒子をハリケーンに散布すれば、ハリケーンの目を取り巻く円筒状の積乱雲、いわゆる「目の壁雲」より外側に雷雲が形成され、それによって目の壁雲が外側へ向かって拡大し、風の力が弱まると、政府の科学者たちは仮説を立てた。

 これを基に、ストームフューリー計画では4つのハリケーンで計8日、ヨウ化銀が散布された。そのうち半分で、散布後に風力が30%弱まったように見えたが、後にこれらの結果には疑問が呈された。

 ハリケーンの目の外側にある降雨帯で、自然に雷雨が発生し、やがて内側へ移動して目の壁雲を弱体化させることがある。そして、目の壁雲にとって代わるという「壁雲の交代」が起こることもある。結局、実験ではヨウ化銀ではなくこの自然現象がハリケーンの勢力を弱めていた可能性が高いと判断された。

 米国海洋大気庁ハリケーン研究部の元部長で、フロリダ国際大学教授のヒュー・ウィロウビー氏は、「ストームフューリー計画の実験計画法は、小さな目を持ったカテゴリー4か5(5段階のうち上位2段階)のハリケーンを実験対象にしようとしていましたが、このようなハリケーンこそ、壁雲の交代が起こりやすいのです」と話す。(参考記事:「観測史上初、太平洋にカテ4のハリケーンが3つ」

【動画】ハリケーンのメカニズム

次ページ:空がダメなら海から?

ここから先は「ナショナル ジオグラフィック日本版サイト」の
会員の方(登録は無料のみ、ご利用いただけます。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    記事が全て読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

科学の誤解大全

答えはひとつではない

当たり前だと思ってきた科学の常識を覆す本。宇宙、物理、科学、人体などのジャンルで約40個の“事実”の間違いを解説する。〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:本体1,300円+税

  • このエントリーをはてなブックマークに追加