サメやエイは孤独を好む魚のように思われがちだが、最新の研究により、少なくとも1種のマンタは、驚くほど複雑な社会生活を送っていることがわかった。(参考記事:「シリーズ 地球のいのち マンタ」)
「幅5.5メートルにも達するナンヨウマンタ(Mobula alfredi)は、大きな集団を作り、熱帯の浅い海を滑るように泳ぎます」と話すのは、米国の海洋生物保護団体マリーン・メガファウナ・ファウンデーションの研究者で、今回の研究を主導したロブ・ぺリマン氏だ。(参考記事:「ナンヨウマンタ、バリ島」)
餌をとる、求愛するといった行動も集団で行うことから、ぺリマン氏は、ナンヨウマンタは実は社交的なのではないかと考えるようになった。
しかも、彼らの脳は大きい。近縁のオニイトマキエイ(いわゆるマンタ)は、あらゆる魚の中で最大の脳を持っている。この点でも、ナンヨウマンタは「かなり知的な動物」と考えられたと同氏は話す。(参考記事:「マンタは大回遊せず、定説覆される」)
5年にわたる観察とその後の研究の結果、ナンヨウマンタは積極的に「知っている個体と付き合い、そうした個体との社会的な触れ合いを覚えている」ことが明らかになったと、ぺリマン氏。研究の成果は、8月22日付けで学術誌「Behavioral Ecology and Sociobiology」に掲載された。
「かなり擬人化した言い方をすれば、友達がいるということです」
マンタの社会性に詳しく光を当てた研究は少ない。「過去には、サメやエイは単独行動をする、社会性に乏しい動物だと思われていたかもしれませんが、近年、それを覆す証拠が増えています。今回の研究もそうした証拠を裏付けるものです」と、同氏は付け加えた。
3400回の遭遇を記録、600匹の個体を識別
ぺリマン氏らの研究チームが調査しているのは、インドネシアのラジャ・アンパット海洋公園。多様な生物の宝庫で、手つかずの自然が残るこの海に、ナンヨウマンタは生息している。
調査では、研究チームはマンタが集まる海に頻繁に潜り、各個体を識別、撮影した。ナンヨウマンタの腹には1匹ごとに違う斑紋があり、それは生涯変わらない。(参考記事:「【動画】マンタにカメラ装着、驚きの奇策とは」)
研究者たちは、ナンヨウマンタと約3400回遭遇し、識別した個体は600匹近くに上った。それをデータベースに記録し、どこでどのマンタを見たか、どの個体と一緒にいたかという情報を蓄積していった。さらにデータを分析する中で、マンタが特定の場所に集まる理由として社会的ではないもの(生息地の好みなど)は除いた。
その結果、マンタは2種類の社会的集団を作ることがわかった。1つはおとなのメスがまとまっているグループ、もう1つはオス、メス、子どもの集まりだった。メスが集まっているのは、望まない交尾をオスが試みてくることに対する防御かもしれないとぺリマン氏は考えている。(参考記事:「金メダル級? マンタのシンクロナイズドスイミング」)
同氏は、血縁的に近い者同士の方が一緒に過ごす期間が長いのかどうかという点についても、今後さらに調べる予定だ。
おすすめ関連書籍
20年以上、世界各地の海の写真を発表してきた水中写真家、鍵井靖章が今回選んだテーマは、見たことのない「未知の海」。232ページ、写真193点の大ボリュームで魅せる水中の絶景を、五つの切り口で存分に味わえます。
定価:本体3,200円+税