「氷を突き抜けて落ちるのは、とんでもない体験でした」。写真家のルイ・パルー氏は今にも凍りそうな水に落ちたときのことをこう振り返る。「慌てるな、慌てるなと自分に言い聞かせましたが、私の体はパニックに陥っていました」
パルー氏はこのとき、北極圏の資源を巡る各国の動きを記録するという数年がかりの撮影プロジェクトに取り組んでいた。そして、カナダ、ヌナブト準州にある冷戦時代のレーダー基地を撮影するに当たり、サバイバル・プログラムに参加することを求められた。カナダ軍の予備兵部隊「カナディアン・レンジャーズ」も指導に携わる過酷なプログラムだ。(参考記事:「氷が解ける北極圏、新たな覇権争いの場に」)
北極圏で任務に就く軍人はこのプログラムに参加し、GPSの読み方から地図の描き方、スノーモービル、シェルターのつくり方、サバイバル技術まで、極寒の地で生き抜くためのさまざまなスキルを学ばなければならない。このプログラムの試験に、選択の余地がない1回限りのチャレンジがある。「突然」氷から落下し、自力で脱出するというものだ。(参考記事:「イヌイットに学ぶ、雪の家「イグルー」の作り方」)
レンジャーたちはパルー氏に、同行取材を希望するのであれば、氷から落ちる試験に合格しなければならないと言った。試験の目的は、北極圏を移動するなかで最大級の危険に対処できるようになることだ。
パルー氏はアフガニスタンで軍事作戦を撮影するなど、数十年にわたって危険な環境に身を置いてきたが、氷から落下し、水中に入った瞬間、思わず取り乱してしまった。「苦痛でしたが、それ以上にショックでした」とパルー氏は話す。「当然、パニックになります。落ちた瞬間です」