インド、ヒマラヤ山中の人里離れた高地に、考古学史上でも屈指の謎に満ちた湖がある。およそ800人分もの人骨が見つかっている「骨の湖」ループクンド湖だ。
この湖で、過去にいったい何があったのか。解明に挑んだ研究結果が8月20日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された。しかし結果は、その謎をさらに深めるものだった。(参考記事:「古代エジプト、人骨が語る過酷な暮らし」)
驚きの分析結果
2000年代の初めに予備的なDNA研究がなされ、ループクンドの死者たちは南アジアにルーツがあるという結果が出た。また、放射性炭素年代測定により、人骨は紀元800年頃のものとされ、全員が1回の出来事で亡くなったと考えられてきた。(参考記事:「古代南欧で謎の「男性大量流入」、DNA調査で判明」)
しかし今回、38人分の人骨について本格的なゲノム解析を行った結果、これまで想定されてきたストーリーは覆された。新たな研究結果では、38人のうち23人は南アジアに祖先を持ち、紀元7世紀から10世紀にかけ、1回~数回の出来事で亡くなったと判明した。
ところが、14人は地中海のギリシャとクレタ島に遺伝的祖先をもつ人々だった。南アジアのグループが亡くなった約1000年後に、おそらく1度の出来事で命を落としたと考えられる。残る1人は東アジアにルーツがあり、地中海のグループと同じ時期に死んでいた。今回分析した人々は、誰も血縁関係はなく、南アジアのグループと地中海のグループは食生活が異なっていたことが、追加の同位体分析で確認された。(参考記事:「ネアンデルタール人のゲノム解読、我々の病に影響」)
なぜ地中海からの集団がループクンドにいたのか、どのような最期を遂げたのかは明らかになっておらず、推測も難しい。
「ループクンドの人骨は遺伝的にどこから来たのかを明らかにしようとしていますが、なぜ地中海の人々が、はるばるこの湖までやってきて、ここで何をしていたのかはわかりません」と語るのは、論文の共著者で、インド、ラクナウにあるバーバル・サーニー古科学研究所の考古遺伝学者、ニラジ・ライ氏だ。
おすすめ関連書籍
おすすめ関連書籍
グローバルに通用する世界標準の教養を、体系化して網羅した1冊。執筆陣は欧米の19人の専門家や有識者、日本語版は東京大学の教授、准教授が監修しています。
定価:本体9,000円+税