アジアやアフリカのバナナ農園で猛威を振るっている病気が、予防措置がとられてきたにもかかわらず、とうとう南米に上陸した。
8月15日、コロンビアで農業を管轄する政府機関ICAは、検体検査の結果、「トロピカルレース4」(TR4)型パナマ病が同国のバナナ農園で検出されたことを確認した。この発表とともに、国家非常事態宣言が出された。
この病気が確認されたということは、食料源および輸出品としてのバナナに壊滅的な被害が出る可能性があるということだ。TR4は、フザリウムという菌がバナナの木に感染して起きる病気。感染した土壌で育ったバナナを人間が食べても危険はないが、感染した木はやがて実をつけなくなる。(参考記事:「バナナの栽培でカイマンに健康被害」)
感染が急速に拡大
この菌が初めて見つかったのは、1990年代初頭、台湾の土壌サンプルからだった。その後は長いこと東南アジアとオーストラリアにとどまっていたが、2013年には中東とアフリカでも確認されるようになった。専門家は、やがて世界のバナナ輸出産業の中心である中南米に広がることを危惧していた。
オランダ、ワーヘニンゲン大学の熱帯植物病理学教授であるヘルト・ケマ氏は、「発見されてからでは、もう手遅れなのです。知らないうちに周囲に広がっている可能性が高いと考えられます」と話す。ケマ氏は、今回TR4を確認したコロンビアの土壌サンプルの分析に加え、それ以前に発生した菌の分析も行っている。
今のところ、TR4に有効な殺菌剤や生物的防除法は見つかっていない。コロンビアの植物病理学者で、検査を統括したフェルナンド・ガルシア=バスティダス氏は、「私が知るかぎり、ICAや農園による封じ込めはうまくいっています。しかし、TR4を根絶するのはほぼ不可能です」と言う。
この菌が広まりやすいのは、バナナ農法自体の問題でもある。現在の商業プランテーションで生産されているバナナは、ほとんどがキャベンディッシュという遺伝的に同じ品種だ。遺伝子が同じであれば、同じ病気にかかりやすい。こうした単一品種の栽培は、商品作物を安く効率的に育てて販売するうえでは便利だが、病害には極端に弱い。(参考記事:「迫る食糧危機、「新たな穀物」はあるか」)
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