ネアンデルタール人がヨーロッパに暮らしていたころ、身の周りには常に危険があった。マンモスやケブカサイ、サーベルタイガー、そして洞窟には、重さが最大900キロにもなるホラアナグマが住んでいたからだ。(参考記事:「絶滅動物サーベルタイガー、驚きの暮らしが判明」)
今日、最大の疑問は、こうした大型動物たちがなぜ姿を消してしまったのかということだ。一部の科学者たちは、約2万6500年前にピークを迎えた最終氷期の極大期のせいだろうと考えている。一方、狩りに長けた新しい人類、ホモ・サピエンスの登場によって絶滅に追いやられたのではと考える科学者たちもいる。
8月15日付けの学術誌「Scientific Reports」に掲載された最新の論文によると、ホラアナグマの場合、ホモ・サピエンス(現生人類)が絶滅の最大の原因となった可能性が高い。
「私たちホモ・サピエンスのヨーロッパ進出さえなかったなら、ホラアナグマは今も存在していてもおかしくないと思います」。そう話すのは、共著者の一人でドイツのエバーハルト・カール大学テュービンゲンの古生物学者、エルヴェ・ボクヘーレンズ氏だ。30年間、ホラアナグマの骨を調査してきた研究者である。
今回の結果は、現代のヒグマが置かれた状況についても示唆を与えてくれる。ヒグマの個体数は今のところ安定しているが、人が増え、温暖化が進むなかで危機に陥る可能性がある。(参考記事:「絶滅クマのDNA、ヒグマで発見、異種交配していた」)
ホラアナグマの集団
ボクヘーレンズ氏と、スイス、チューリッヒ大学のヴェレーナ・シューネマン氏が率いる研究チームは、ヨーロッパ中から59頭のホラアナグマの骨を集め、そこからミトコンドリアDNAを抽出した。ミトコンドリアDNAは母親のみから受け継がれ、異なる地域に暮らす動物たちの間の遺伝的関係を明らかにできるほか、過去の集団サイズも推定できる。(参考記事:「ミトコンドリアDNAでわかった人類の歴史」)
「モデルを使った計算によれば、ある時期の化石から得られたミトコンドリアDNAが多様であればあるほど、その頃の集団サイズは大きかったのだろうと推測できます。そこから、あらゆる時点でのクマの個体数を推測することができます」とボクヘーレンズ氏は話す。